MakerDAOをスクラップにした理由、創設者ルーン・クリステンセン氏が自ら説明【インタビュー】
メーカーダオ(MakerDAO)のダイ(DAI)は最も成功した分散型ステーブルコインかもしれないが、創設者のルーン・クリステンセン(Rune Christensen)氏は昨年、プロジェクトが崩壊の危機に瀕しているのではと懸念していた。そこで、彼は救済プランを考え始めた。 クリステンセン氏の提案は、すでに「エンドゲーム(Endgame)」として実行されており、メーカープロジェクトを大規模に拡張し、「サブDAO」の創設によって、新たなステーブルコイン、収益を生み出す新たな方法、そして新たなビジネスの無限の可能性を生み出そうとしている。 8月末には、新しいステーブルコイン「USDS」、新しいガバナンストークン「SKY」、そして新しいDeFiアプリケーションが9月18日から利用可能になると発表された。 関連記事:MakerDAO、新ステーブルコインとガバナンストークン発行で「Sky」にリブランディング 米CoinDeskは5月、クリステンセン氏にインタビューし、エンドゲームについて聞いていた。ようやく実態が見えてきた今、インタビューを振り返ろう。インタビューが行われたのは5月17日、メーカーが2つの完全分散型ステーブルコイン、NewStableとPureDAIのリリースを発表した日だった。 ●
「エンドゲーム」という大きな変革
──あなたたちにとってはビッグニュースの1日となった。 そう言えるだろう。 ──より分散型のステーブルコインをローンチするということは、ダイはこれまで、分散化を第一に追求すべきだったことを暗黙のうちに認めたのか? DeFi(分散型金融)には分散化のアプローチが大きく2つある。ひとつはツールとして分散化を使うもの、もうひとつは指針的なもの。後者は、イデオロギーとまでは言わないが、根本的な手段や最終的な目標そのものとして分散化を使うものだ。 今回の発表で触れているのは、分散化をツールとして使う場合、この2つがどのように相互作用するかということだ。もし誰かがエンドユーザーにとって有用な製品を作ろうと考えているのであれば、それを分散型にするのは、レジリエンス(復元力)や機能を提供する能力といった特定の理由のために行われるべきだ。 一方、分散化が指針的なイデオロギーである場合、製品そのものが純粋な分散型となる。この2つのユーザーベースとターゲット層はまったく異なるはずだ。 我々の第2のユーザーベースは、純粋さを重視するビットコインやイーサリアムの古参ユーザーだ。しかし、暗号資産(仮想通貨)がより成熟するにつれて、大多数の人々はより有用な製品に興味を持つようになる。 特にステーブルコインで顕著だ。ステーブルコインのトリレンマによって、スケーリングは非常に難しい。1ドルというペッグを維持するのであれば、実物資産を使わなければならず、分散化は常に制限される。 ──メーカーダオのコアバリューは? メーカーがスタートした当時は、初期の実験や思いつきのアイデアで、ほとんどが無意味なものだった。我々はこのテクノロジーを使って、人々の役に立つものを作りたいと考えていた。そうした視点を持っていたことは、本当に幸運だった。当時は誰もやりたがらないような退屈なアイデアだったステーブルコインを作ることができたのだから。 他のアイデアはクールだったが、安定したものがなければ使い物にならない。ステーブルコインは、実は最も強力なビジネスモデルだとわかった。ブロックチェーンテクノロジーから生まれた製品で、人々に実際に影響を与えたのだから。しかも、その影響は大きかった。 結局のところ、我々が今取り組んでいる理由、多くの大きな変更を行なっている理由は、基本原理から考え直そうとしているからだ。分散化によってできるあらゆることの恩恵を受けながら、人々のためになる便利なものを作るにはどうすればいいかを考え直している。 ──エンドゲームの行き着く先は見えているか? エンドゲームの基本コンセプトは、成長とレジリエンス(復元力)。それが全体のゴールだ。指数関数的に成長し、成長とともにレジリエンスが増していくものでなければならない。 エンドゲームの核となるアイデアは、システムの最終状態に到達し、これ以上、変化する必要がない状態にすることだ。これはビットコイン本来の価値観、つまり分散化は良いことであり、レジリエンスは良いことであり、信頼性は良いことであるという原則を利用したものだ。 しかし、人々が望むものを提供するためには、市場に適応できなければならない。そこで、サブDAOの出番となる。サブDAOは、システムのコアが最終状態に到達し、不変になることを可能にする。その一方でサブDAOは、新しいユーザーを惹きつける複雑さ、適応性、革新性のすべてを引き受けることができる。 すべては基本的に、そこから始まる。我々は何かにコミットし、市場の合図に従う前に、実際に何が機能するのかを確認しなければならない。事前にすべてを予測し、その通りに作ることは難しい。通常、それでは実際に人々の役に立つものはできない。それよりも、人々が実際に何を求めているのかを把握し、その方向に向かっていくほうがいい。