MakerDAOをスクラップにした理由、創設者ルーン・クリステンセン氏が自ら説明【インタビュー】
DAOのガバナンス
──例えばアーベ(Aave)のようなDeFiブランドが、コアカテゴリーを超えて拡大している傾向をどう思うか? メーカーがエンドゲームに向かって突き進んでいるのと同じようなことだ。 アーベのソーシャルメディア分散化の試みは、少し異例だと思う。より典型的な例で言えば、Fraxはこれを明確にした最初のプロジェクトで、どのプロジェクトも結局は、コードベースのあらゆるモデルをやることになると言っていた。DeFiであれば、おそらくレンディングやステーブルコイン、取引所もやるだろう。 メーカーもDEX(分散型取引所)、レンディング、ステーブルコインをやっている。なぜこのようなことが起きているかというと、これらすべてにおける本当の課題は、実際の製品を作ることではなく、すべてを維持するためのDAOのガバナンス・レイヤーを持つことだからだ。 つまり、すべての複雑さと投資の行き着く先は、そのようなものを維持するための意思決定能力を持つことにある。もし、すでにステーブルコインでそれを行う能力を持っているのであれば、すでにコストの大部分を支払っており、同じガバナンスの手段を使って機能を追加することは非常に簡単だ。 実際、ガバナンスを維持することは非常にコストがかかり、難しいため、そうせざるを得ない。エンドゲームでは、この考え方を極限まで押し進めている。極めて高度で洗練されたガバナンス・レイヤーを開発し、それをサブDAOで何度も何度も再利用している。これが規模の経済だ。すべての異なるサブDAOから経験とデータを得ることができ。 ──メーカーダオのガバナンスが過剰に設計されていると感じたことはあるか? 問題は、過小に設計されていることだと思っている。 ──おもしろい。 その問題こそが、ガバナンスを単純化できる理由だ。それが我々が最初にしたことだろう? 技術的なレイヤーを開発し、プロトコルを開発し、シンプルな投票システムをそこに載せてリリースした。コミュニティは自分たちの最善の利益となるように投票するから、自由市場がなんとかしてくれるだろうと考えた。しかし残念なことに、DAOで実際に起こるのは政治だ。 つまり問題は、あらゆるグループ設定、あらゆる政治的設定における仮定にある。つまり、誰かが公的システムに提案や調整を行う場合、それはシステムに利益をもたらすためだという前提がある。いわゆるゲーム理論だ。しかし、実際のゲーム理論では、人は自分にとって最善であれば何でも行う。誰もが自分に利益をもたらすために投票する。 誠実な人が十分にいれば、そのような行為に気づき、止めることができる。だが問題は、政治的なレイヤーが増えること。つまり、システム全体の利益のためと言いながら、実際には自分の利益を目的に議論していることが多くなる。議論が本物かどうかを見分けることは、信じられないほど難しい。 人間とはそういうものだろう? 人々は混乱し、協力し合い、利害を共有するグループができる。つまり、すべては極めて複雑で、人間の政治を解決することはできない。唯一の解決策は、ヒエラルキーを設けること。誰が誠実かを決めるために、信頼できるリーダーを置くことだ。 もうひとつの選択肢は、CEOが一般的に持っているような知識をすべて含んだ透明性の高いフレームワークを構築すること。特定のエンジニアリングタスクに報酬を支払う際、その報酬が適正がどうか、またクオリティチェックができるように、可能な限り多くの公開データと知識を備えることが望ましい。 そのような決断すべてを、投票に委ねることはできない。なぜなら市場価格の10倍の報酬を請求する自分のサプライヤーに投票するからだ。しかし、データとプロセスを構築しない限り、それが実際に起きているかどうかを把握することはできない。 ある意味、細部にこだわってすべてのプロセスを構築しなければならない、極めて困難なエンジニアリングだ。ガバナンスシステムのどこかにブラックボックスを残すことは、スマートコントラクトにハッカーが侵入できるバグを残すようなものだ。 我々は、大きなガバナンスレイヤーであるAtlasを構築することで、少しずつその方向に向かっている。 ──あなたは良い政治家になれると思うか? そうは思わない。DAOでの問題に対処するために、そうしたスキルを身につけなければならなかっただけだ。もともと身につけていたわけではない。メーカーでコードを書いているわけではないという意味では、技術者ではないが、間違いなく、技術的なマインドを持っている。言葉や文章よりも、技術やシステム的な思考が得意だ。