「18歳頂点」学力から脱却、横浜創英の本気改革 工藤勇一校長退任も、学校の方向性は変わらず
学校改革の本丸は、学び方改革。だが「学び方改革を進めるには教員のマインドの変革、そのためのゆとりが必要」と、横浜創英中学・高等学校は2020年から働き方改革を進めてきた。いよいよ2025年度からは新しい教育課程がスタートするという道半ばで、改革を率いてきた前校長の工藤勇一氏の退任が公表された。これまでの改革の行方は?新校長の本間朋弘氏に、教育ジャーナリストの中曽根陽子氏が話を聞いた。 【写真を見る】工藤勇一氏からバトンを引き継いだ新校長の本間朋弘氏。 千代田区立麹町中学校で公教育でも大胆な改革が可能なことを示した工藤勇一氏が、高校教育も併せた学校教育改革を実現する舞台として選んだのが横浜創英中学・高等学校だった。 まず改革の担い手である教員の意識改革と働き方改革から始め、4年間でその下地をつくり、本丸のカリキュラム改革にも挑んできたが、この3月末でその役を退くことに。 そんな工藤氏のもとで改革を支え、カリキュラム構築を行ってきた本間朋弘氏が、2024年4月から校長に就任した。今回は、本間新校長(以下、本間氏)に、4年間の学校改革の足跡と、いよいよ2025年から本格的に始動する具体的な新カリキュラムの内容、そして工藤氏からバトンを引き継ぐ決意を聞いた。
「18歳の頂点学力の構築」から脱却し、社会とつながる教育に転換
もともと公立高校入学希望者の受け皿という立ち位置の学校だった横浜創英高等学校。本間氏が11年前、県立トップ高校から移動した当初、本間氏に与えられたミッションは「横浜創英の進学体制を構築する」ということでした。つまり大学進学実績を上げるということです。 本間氏は、講習や模試対策などを進めた結果、進学実績は大幅に上がったが、数年前から違和感を覚えていたと言います。それが4年前に工藤氏が校長に就任し、確信に変わりました。 「自分がそれまでの教員生活で行ってきたのは、『18歳の頂点学力』の構築でした。希望する大学に合格するということは、生徒にとって夢の実現だから、それを支える責任を学校は負っている。しかし、大学進学のための学力育成ばかりに重きを置いて、自分が教えた生徒が大学に入ってどうなっているのか、 社会で活躍しているのか、そういったことにほとんど関心を持ってこなかったことに気づいたのです」(本間氏) 確かに、日本の子どもたちは高校卒業時の学力はトップレベルだが、大学に入ってから勉強をしなくなり、海外に抜かれるといわれています。それは大学受験をゴールにした今の教育システムの結果だとすれば、その構造を変えなければ、日本は大きく変わる時代の波に飲み込まれて衰退していくだけでしょう。 「昭和や平成の初めであれば、受験勉強を頑張って一流大学に入り、定年まで一流企業で働く選択は合理的であったかもしれません。しかし、年功序列社会が崩壊し、定年まで1つの企業で勤めることが困難な時代になっています。近い将来、今ある企業の多くは形を変えていくでしょう。自分の強みやとがりを生かして起業をし、転職を繰り返す時代では、多様な仕事に転化できるスキルとマインドを身に付けることが不可欠です。 人口が多い時代であれば、儲かっている企業の真似をしていればよかった。でも、今の時代は真似事ではなく、人が誰もやっていないことを考え、実行する力がないと社会を生き抜くことはできません。社会に出てから人は、自分の弱みではなく強みで勝負していかなければなりません。生徒自身が自分の強みやとがりがどこにあるのか。それをこの横浜創英で発見できるカリキュラムを、現場の先生方と一緒に構築してきました」(本間氏)