「18歳頂点」学力から脱却、横浜創英の本気改革 工藤勇一校長退任も、学校の方向性は変わらず
余白の時間を増やし、学校外で学ぶことも推奨
そもそも学習指導要領に示されている最低修得単位は74単位ですが、多くの学校が110単位ほどを定めています。横浜創英では卒業認定を74単位とし、圧縮して生まれる余白の時間を自由選択の時間とし、学校外で学ぶことも可能にしていきます。 「横浜創英が考えている教育を私なりの言葉で表現すれば、『学校に軸を置きながら、生徒たちを社会に解き放す』ということです」(本間氏) そこで積極的に増やしているのが、大学との連携です。昨年までに筑波大学はじめ7大学と提携し、大学の講義や提供するプログラムに参加することで、単位も認定されます。 また、学年を超えた探究型の授業を増やしており、2022年から高校で始まった合教科型のコラボレーションウィークという取り組みもその1つ。ミッションを与えて解決方法を見つけさせる手法で、学びの中心は子どもです。 異学年の生徒がグループを結成し、生徒をできるだけ知り合いのいないアウェイの環境に置くことで、コミュニケーション能力や自走する力も育つのです。さらに通常の授業形態も教師が教えるスタイルから、生徒が学び方を選択するスタイルに移行しています。すでに中学の英語の授業では、 (1) 教師が教える部屋 (2) 生徒同士で学び合う部屋 (3) 個で学ぶ部屋(教材は生徒が自由に選択) (4) ベルリッツやセブ島のオンライン英会話プログラム、マイクラ英語版など企業のプログラムを使って学ぶ部屋 (5) 学ばない部屋(横浜創英では、生徒の学ばない権利も認めているけれど、他人の学びを妨害することは認めていないので、学びたくない生徒は(5)の部屋で過ごします) の5つの教室に分けて実施していますが、最終的には(5)の部屋で過ごす生徒はほぼいなくなったとか。これも生徒の当事者意識を育んだ結果なのでしょう。
未来を見据えた学校改革 いよいよ本気度が問われる
高大連携を進めているのは、在学中から大学の探究型授業に参加することで、大学生と一緒に社会課題を解決するスキルを得るため。大学で履修した単位を認めて、その単位数が一定数あれば、学校に来る時間を削っても卒業を認める。 大幅な自由選択制の導入を進めているのは、一斉に学ぶカリキュラムから個が選択するカリキュラムへ転換するため。学校で学んだことは、自身で意義づけをすれば役に立つことはたくさんあると思いますが、ムダで邪魔なものも多い。ムダなことに費やす時間を減らして、社会とつながるための時間を増やす。 教務基準を変更して、留年の制度を実質なくしたのは、自らが社会とどうつながっていくのか、そのことを考える時間とゆとりを作るため。学校に行かないというのは逃げているわけではなく、生き方をゆっくり模索しているだけ。大人が待ってあげればいい。学校で学び直してもいいし、学校以外の素敵な場所が社会に見つかったら飛びこめばよい。 校則を実質ゼロにしたのは、社会で認められていることは学校でも認める。それは、学校運営の権限を生徒の主体に移譲することで、建設的な社会を構築する将来のスキルにつなげるため。 出所:本間氏のfacebookの投稿より 4年経った今、高校は第一志望の生徒が増え、一般入試の併願確約での募集を中止。中学の受験者数も増えています。そんな状況での突然のトップ交代は、少なからず波紋を呼んでいますが、「学校改革の方向は変わらない」と本間氏は強調します。これからは、これまで実行部隊として横浜創英の教育改革を支えてきた本間新校長と山本副校長のツートップ体制で、具体化していくフェーズに入るということでしょうか。 ちなみに工藤氏は、今後も教育アドバイザーとして、リーダー養成講座など生徒への授業や生徒や保護者の相談、大学や専門機関との折衝、連携などに携わる予定とのこと。学校の方向性に変わりはないということでした。 2月に横浜創英中学校の新タイプ入試、コンピテンシー入試を取材した際、工藤氏から「ここでできたことは、全国の学校で横展開できる」と聞きました。2025年から始まる教育課程が、これからの日本の教育の方向性を示すフラッグシップになりうるのか、工藤氏のリーダーシップのもと学校改革を進めてきた横浜創英の、法人を含めた本気度が問われています。 未来を見据えて希望を託している生徒たちを裏切らない学校になっていってほしいと思います。 (注記のない写真:studio-sonic / PIXTA)
執筆:教育ジャーナリスト 中曽根陽子・東洋経済education × ICT編集部