「搾れば搾るほど赤字」円安で牛乳ピンチ 酪農家たちが探る飼料国産化への道 #生活危機
問題は、そうした飼料米や稲WCS使用などの努力を積み重ねても、今年は1000万円の赤字が見込まれることだ。 「飼料用米や稲WCSを使っている分、多少赤字が抑えられていますが、限界があります。それだけ円安の影響が大きい」 同じように、平塚の片倉さんも国産飼料の導入に取り組んでいる。片倉さんの場合は、自分の農地で飼料を育てる自給型だ。
牛乳値上げでも円安上昇分は吸収し切れず
「自給飼料の栽培は、近隣の酪農家と共同で行っています。そこで、愚痴を言い合ったりしながら何とかモチベーションを保っています」 片倉さんは仲間の酪農家と共同でハーベスターなどの農業機械を導入し、飼料用トウモロコシや牧草を育てている。また、米をつくったときに出る稲わらも飼料として活用する。ただし、所有する7ヘクタールの農地では、80頭のホルスタインを賄うほどの量は収穫できない。
そこで、自給飼料は全て20頭のジャージー牛に与えている。ジャージー牛は生乳の生産量は多くないが、味が濃くて風味もあり、生クリームなどの加工に向いている。自給飼料を使うことで飼育コストを下げ、地元の農産物直売所などに販売している。 「利益はまだ微々たるものですが、自給飼料で育てたジャージー種の乳は、地元の人たちに使ってもらい、共に発展していきたいです」 こうした試行錯誤に加え、前述のように11月には牛乳の価格が引き上げられた。だが、それでも経営は楽になっていないと片倉さんは明かす。 「経費などを引くと乳価の上昇分で、自分たちのところに来るのは生乳1キロあたり7円くらい。7円上がったところで、私らは円安の状況下で輸入の餌も買い続けなければいけない」
円安を持続可能な酪農への転換への好機に
円安で輸入飼料の高値が続けば、経営努力を続けてきた酪農家も廃業を選択せざるを得なくなる。田中さんも片倉さんも、この数カ月で知り合いの酪農家から廃業の知らせを聞いた。田中さんは「うちもこのままでは、この先2年、耐えられるかどうか」と不安を漏らす。 いわば酪農の危機ともいえる状態だ。今の状況で酪農家の経営を安定させるには、乳価の更なる引き上げが必要だ。しかし、それは牛乳や乳製品の再値上げという形で国民の生活に大きな影響を与える。酪農家の廃業が多くなれば、生乳の生産そのものが危うくなってしまう。前出の小林准教授は、日本の酪農を安定させるには輸入飼料から国産飼料への転換が鍵になると訴える。