普段温厚な人が、酔ったら突然キレだす理由…「酒で性格が豹変するタイプ」の脳で起きている危険な症状
■なぜ一夜で3回も態度が変わったのか? そしてパーティが終わりに近づく頃、ピェテルはテーブルに突っ伏して眠っていた。さっきまで言いたい放題ではしゃいでいた人物が、すっかり酔いつぶれていた。ところが、親友が誤って身体にぶつかったとたんに跳ね起きて、彼を怒鳴りつけた。 一夜のうちに3つの態度をピェテルにとらせたものは、いったい何なのか? アルコールには、脳の特定の部位の働きをストップさせる力がある。そのため、体内のアルコール濃度が高くなると、その人のふるまいが変わる。脳の一部がアルコールの濃い霧に覆われて、機能が停止してしまうのだ。一時的に脳に軽いダメージがおよんだ状態だ。 酒が入らず自制心があるときには、脳全体が機能している。ところが、酒を何杯か飲むと、分析力や、自分の行動の結果を考える力が働かなくなってしまう。 いっぽう、感情を担当する部位は、飲酒しようがしまいが、きわめて順調に機能する。こんな諺(ことわざ)がある。子どもと酔っ払いは嘘をつかない。 私たちは、ある程度の量のアルコールが体内に入ると、自分の気持ちや考えを、結果もろくに考えないで口にしてしまう。相手がその言葉をどう受け取るかなど、考えない。なぜなら、自分の発言の影響を予測する力が、一時的に働かなくなるからだ。 ■ストレスが脳を「霧」で包む そのまま酒を飲みつづけると、感情をつかさどるシステムも、アルコールの霧に包まれる。そのため感情の機能もストップし、機能しているのは生存と本能の働きだけになる。 そして何か脅威を感じると、本能は「逃走(フライト)」か「闘争(ファイト)」、あるいは「凍結(フリーズ)」をうながす。「凍結」は、動物が危険を避けるために死んだふりをするときの行動だ。 私たちがストレスを感じると、脳のなかでは酒に酔ったときと同じことが起きる。アルコールが徐々に脳を霧に包んでいくように、ストレスも脳の各部位の働きを順に停止させていく。 仕事や私生活において、私たちは常にストレスにさらされている。 学校や職場、家庭で、やるべきことを山ほど抱え、それをかぎられた時間のなかですべてこなさなければならない。そのいっぽうで、自分の心身をケアする必要もある。 また、自分や家族の病気や悩みごとにも取り組まなければならない。失業や、家の問題のストレスもある。 自分が属している社会の情勢が急変することだってある。テクノロジーは瞬く間に進歩し、情報の洪水が私たちに襲いかかる。世界のあらゆる危機を、メディアがひっきりなしに報じる。 こうした要素すべてが、ストレスの原因になる。 ストレスを感じると何が起きるだろうか? また、長いあいだ働きづめの人がストレスにさらされつづけたら、何が起きるだろう? こんなことは言いたくないが、私たちはみんな、脳に一時的に軽いダメージを負ってしまうのだ。