育成型クラブが求める選手の基準は? 将来性ある子供達を集め、プロに育て上げる大宮アカデミーの育成方法
高校生年代の最高峰リーグである高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグでの戦いが6年目を迎えた大宮アルディージャU18。これまで大宮は多くのアカデミー出身選手がトップチームに昇格し、主力としてチームを支えてきた。大宮はどのような基準で将来性のある子どもたちを集め、プロとして通用する選手に育て上げているのだろう。大宮アルディージャアカデミーの金川幸司ヘッドオブコーチング、そして今季J3を戦うトップチームの長澤徹監督への取材を通して見えてきたものとは? (インタビュー・構成=佐藤亮太、写真=アフロ)
J3で戦う大宮アルディージャを支えるアカデミー出身選手
本稿の取材のきっかけはある選手の活躍だった。大宮アルディージャDF市原吏音、18歳。大宮アルディージャジュニア、大宮アルディージャU15、大宮アルディージャU18を経て、今年トップ昇格を果たした、たたき上げのアカデミー出身選手だ。 各カテゴリーの日本代表に選出される市原は昨季、大宮U18に所属しながら、J2で17試合に出場。今年1月にはAFC アジアカップカタール2023のトレーニングパートナーに選出された。J3で戦う今シーズン、背番号を4に変更。名実とも主力への一歩を踏み出した。 以前から大宮はアカデミー出身選手がトップ昇格し、主力となるケースが多い。 昨年10月には奥抜侃志(現1.FCニュルンベルク)がアカデミー出身選手として初めて日本代表にも選出されている。 トップチームを支える下部組織。大宮のアカデミーはどのような選手を求め、育てようとしているのか。 2022年からアカデミーを統括するヘッドオブコーチング(兼ヘッドオブスカウト)を務める金川幸司氏(以下・金川HOC)に話を聞いた。
幹になる部分が各カテゴリーで共有されていることが重要
――昨シーズンにデビューした市原吏音選手が今季、守備陣の主力となっています。これまで大宮は小野雅史選手(名古屋グランパス)、黒川淳史選手(現水戸ホーリーホック)、柴山昌也選手(現セレッソ大阪)など、ポジションが前めの選手が主力としてトップチームで活躍している印象でした。 金川:髙山和真(現大宮普及担当コーチ)、浦上仁騎、現在大学に在籍する選手などセンターバックがいなかったわけではないですが、(市原)吏音ほどのインパクトは初めてかもしれません。吏音に限らず、大宮には選手に求めるキーワードがあります。メンタリティーとして謙虚さ。ハードワークできるかどうか。戦術的に適応できるかどうか。これらを求めています。 アカデミーが掲げるサッカースタイルを踏まえ、そうした資質を持った選手を集めることで実現できるように目指しています。例えば、うまいけどあまり走らない。ポジションにもよりますが「自分が一番」と思い、周りと協力しない選手ではなく、組織的なプレーができるか。どういう意図を持って相手を崩し、意図的にボールを奪えるか。これらができることが前提にあります。 加えて個人の特徴があります。例えば、吏音ならヘディングの強さ、読み・予測の良さ、技術的な面はセンターバックとしては悪くないものがあります。前提として、どう組織としてつながってプレーできるか。それができる選手を求めています。 ――個人と組織とのバランスのとり方は非常に難しさがあると思います。 金川:大宮のフィロソフィー(哲学)の特徴として、「攻守でイニシアティブ(主導権)を握ろう」というものがあり、攻撃ではボールを保持しながら、意図的に崩すことを意識しています。守備では相手につられずに、ボール中心にポジションを取りながら、組織的に守っていきます。そこをベースにしたうえで、選手の個性が乗るイメージです。そうしたベースがないと、何をしたらいいのかわからず、ピッチ上で迷子になり、目的を見失ってしまいます。 サッカーは判断のスポーツ。チーム、個人としてどうすべきか、1秒単位で求められます。そのときに後ろ盾になるもの、立ち返れるもの、幹になる部分が各カテゴリーで共有されていることが重要です。例えば、中1のときに言われた指示が中2、中3で違ったりすることがないようにするのが特徴です。なので、中2の選手が中3のチームの試合に出場しても違和感なく入れますし、小学生の選手を中1のチームに入れたことがありましたが、それでも違和感なく入れました。サッカーのスタイルやフィロソフィー自体が明確なので迷いは生まれません。トップチームにも通ずる話ですが、アカデミー出身選手で共有した、トレーニングに裏打ちされた「あ・うんの呼吸」があります。