育成型クラブが求める選手の基準は? 将来性ある子供達を集め、プロに育て上げる大宮アカデミーの育成方法
若い選手が何かを得るうえでJ3は有意義なリーグ
金川HOCのインタビューから約2週間後の4月11日。J3第8節が行われ、大宮はY.S.C.C.横浜とアウェイで対戦。大宮は前半22分の杉本健勇のゴールが決勝点となり、1‐0で完封勝利。今季初のアウェイ勝利をおさめ、6勝2分の無敗での勝点20となり、1試合未消化ながら単独首位を守った。 この試合のメンバー表を見ると、大宮は帯同18選手中、アカデミー出身選手は半分の8選手。ちなみにスタメンではDF村上陽介、DF浦上仁騎 MF小島幹敏。ベンチスタートとなったDF市原吏音、MF石川俊輝の2人が途中起用された。 アカデミー出身選手、特に経験年数が少ない選手が多く起用される傾向が3月13日に行われたJリーグYBCルヴァンカップ・1stラウンド第1回戦のFC岐阜戦(2-1)を境に強まった印象がある。 この傾向はケガ人などチーム事情でやむを得ない編成なのか、それともあえて若手選手を起用しているのか。加えて、アカデミーについて、J3で戦う意義について、YS横浜戦後の会見で大宮・長澤徹監督に尋ねた。 「 (メンバー編成は)勝利から逆算したときに必要だと考え、控え選手も含めてチョイスしました。大宮のアカデミーは本当に素晴らしく、丁寧な指導が行われています。 それでも、やはりプロとアマチュアには明確な区分けはあります。アマチュアは選手の成長や『みんなで頑張る』といったものが重視されるべきです。一方、プロは勝負が先にくる、そこが違いです。プロフェッショナルとして契約したとき、私は『勝負とは何か?』を今の選手たちに、はっきり突きつけています。90分のなかでその一瞬ですべてが終わってしまう世界に来て、「次があるからいいよ」ではなく、入場料収入を含めて、お客さんから自分たちのサラリーが発生する責任のなかでプレーする重さを背負ってプレーすることはどういうことかを、ごまかさずに突きつけています。 でも、若いということは順応性があるので、責任を背負いながらも、選手はやってくれています。筋トレに例えるならば、最初はベンチプレスでいきなり重いものを持たされている感覚だと思います。でもやっていくうちにだんだん慣れて、持ち上げられるようになるのと同じで、徐々にやれてきています。だからもっと厳しい状況に立たされたとき、さらに成長できると思います。 実はYS横浜さんは、今日は中2日での試合でした。J3における中2日、中3日の厳しい日程はどのチームも経験していますし、必死に戦う選手たちがそろっているリーグです。私も2019年にFC東京U-23でJ3を戦いましたが、本当にこのリーグはすごいと感じました。若い選手が厳しい試合を戦い、何かを得るうえで、有意義なリーグです。とはいえ、今の大宮としては(J3を)突き抜けていくと決意しています」
大きな役割、アカデミーの存在
金川HOCと長澤監督のインタビューからはトップチームとアカデミーが地続きであり、かつ、選手やフィロソフィーが成長を遂げながら受け渡されていることが感じられる。 アカデミー出身選手、特に経験の浅い若手がJ3でもまれ、今後、主力として、クラブ全体の幹となって、J2、J1へ駆け上がっていく。 その大きな役割がアカデミーの存在。 大型補強ばかりに頼らず、自前の選手でチームの強化をさらに押し進め、戦績をあげていく。 その転換期が2024シーズンだったと数年後、思い出すことだろう。 <了>
インタビュー・構成=佐藤亮太