職人が目の前で焼いて提供する和菓子にも挑戦、「虎屋」が創業から500年たって令和にたどり着いた“らしさ”
企業を取り巻く環境が激変する中、経営の大きなよりどころとなるのが、その企業の個性や独自性といった、いわゆる「らしさ」です。ただ、その企業の「らしさ」は感覚的に養われていることが多く、実は社員でも言葉にして説明するのが難しいケースがあります。 いったい「らしさ」とは何なのか、それをどうやって担保しているのか。ブランドビジネスに精通するジャーナリストの川島蓉子さんが迫る連載、第19回は、日本を代表する老舗ブランドの1つである虎屋を取り上げます。 【写真で見る】銀座7丁目に登場した「TORAYA GINZA」。そして、職人が目の前で焼いてくれる「焼きたて 夜半の月」、期間限定商品「陽の香」など
■銀座7丁目に登場した「TORAYA GINZA」 室町時代後期に京都で創業し、御所の御用を勤めてきた虎屋は、500年近い歴史を持つ老舗。1869年、遷都に伴って拠点を東京に移し、1879年、銀座に出店した後、赤坂に店を構えた。 現在、社長を務める黒川光晴さんは18代目にあたり、4年前に当主を受け継いだ。35歳という若さで老舗ブランドを受け継ぎ、少し重圧なのではと勝手に思っていたが、久しぶりに話を聞き、良い意味での貫禄と自信を感じた。
この4月11日、銀座7丁目に「TORAYA GINZA」がオープンした。中央通りから1本入ったすずらん通りにあるエレベーターにのって4階へ。扉が開くと、静謐でシックな空間が広がっている。 【写真】「TORAYA GINZA」の内観、注文が入ると職人が銅板で焼き上げる「焼きたて 夜半の月」など 控えめな照明の中、入り口付近に菓子の販売スペースがあり、その先にはゆったりした客席がある。一隅に4人がけの席が設えてあって、奥には中央通りに面したテラス席が――銀座の空をのぞむことができる贅沢な空間だ。
ここはもともと「とらや銀座店」があったところ。1947年の開業というから、80年近い歴史ある店舗を、今回、全面的に建て直したという。 きっかけは、建築物を新たな耐震基準に対応させることにあり、以前は不定形だった土地を整備するところから取り組んだ。周囲の2つのビルを購入する一方、敷地内にあり使われていなかった拠出路地を廃する方向で進めたのだが、それを実施するために、路地に面したビルのオーナー全員に話して納得してもらったという。