職人が目の前で焼いて提供する和菓子にも挑戦、「虎屋」が創業から500年たって令和にたどり着いた“らしさ”
新しいTORAYA Ginza Buildingは、1階から3階までが「バレンシアガ」、4階が「TORAYA GINZA」になっている。 上階に店を構えた理由はどこにあるのか――「少し隠れ家的な要素も含め、わざわざ来ていただけるお店にという思いがあったのです」と黒川さん。目的を持ったお客に向け、じっくり育てる店という考え方はわかるのだが、銀座の中央通りに面し、確かな存在感を放っていた「とらや」の暖簾がなくなってしまったのは、少し寂しい。街と店とブランドは一体となって人の記憶に残るもの。そこをどう築いていくかは、これからの課題の1つと言える。
■パリ店の名物を国内で初めて販売 どんなお菓子が提供されるのか。1つは焼き菓子で「焼きたて 夜半の月」と名づけられたもの。注文が入ると、職人が銅板で焼き上げ、虎屋の小倉あんを挟んで供してくれる。パリ店で1994年から売っていたが、国内で通年販売するのは初めてだ。 もう1つは、フルーツを使った生菓子で、イチゴを主役に据えている。「馨」と名づけられ、淡いピンク色の姿形が愛らしい。新鮮ないちごの風味や奥深い香りを楽しんでもらうため、あくまで“できたて”を味わってもらうことにこだわった。食べてみると、イチゴの瑞々しい香りと風味が口いっぱいに広がる一方、あんこのおいしさがしっかり感じ取れる。こちらは残念ながら期間限定(5月中旬まで)で、四季折々で変わっていく。
しかも、この2種類は、カウンター席に座ると、職人が目の前で作ってくれるという贅沢な体験が味わえる。さらに、パッションフルーツやライムの果汁、山椒など、さまざまな素材を使った「ちぐさかん」という、ひとくちサイズの羊羹を新たに発売した。 500年に及ぶ歴史は、「今から未来に向け、どういうお菓子を作り、お客さまに喜んでいただけるか。その積み重ねにあると思うのです」(黒川さん)。「TORAYA GINZA」はチャレンジを行う場ととらえているという。