職人が目の前で焼いて提供する和菓子にも挑戦、「虎屋」が創業から500年たって令和にたどり着いた“らしさ”
■“今”を大事に判断していくことが肝要 長きにわたってブランドを維持していくには、創業来の基軸を貫きながら、時代の変化にフィットした挑戦が求められる。 「お客さまも、それを取り巻く環境も、日々刻々と変化していくので、その瞬間瞬間の今をとらえ、変えなければならないものを判断しなくてはいけないと思っています」と黒川さん。その際、基準や枠組みにとらわれ過ぎることがあっていけない。 虎屋の中には、代々「変えてはいけないものはない」という考えが根づいているという。つまり、過去の成功体験に則って決めるのではなく、今にとって何が大事なのかを動きながら判断し、やりながら修正して進んでいく。そういうプロセスをとってきたという。「幼い頃から、少しずつ変化しているさまが身近にあったという感覚知みたいなものが影響しているのかもしれません」(黒川さん)。
企業の中で新しいことをやろうとすると「前例がないのに大丈夫なのか」「成功する確率はどれくらいあるのか」など、リスク回避しようとする意見が必ず出てくる。何とか了承をとってやってみて、成功すると「やはりあの時の判断は正しかった」となるし、失敗すると「思った通りダメだったじゃないか」となる。 しかし黒川さんの話を聞いていると、新しいことをやるにあたって、理論理屈ありきで守りに入るのではなく、やりながら柔軟かつ臨機応変に対応していくという繰り返しが500年に及ぶ歴史を築いてきたのだとよくわかる。
では、虎屋の基軸をなしている“らしさ”とは何なのか。「“美味しさを常に追求し続ける姿勢”は、虎屋らしさを表現していると思います」と即座に答えが返ってきた。 虎屋の経営理念は「おいしい和菓子を喜んで召し上がって頂く」――一見すると、当たり前のことに映るがそうではない。「お客さまに美味しいと思っていただける最高の状況を作ること、そこを追求し続けているのです」と黒川さん。 そこには、菓子そのものについての素材や技術が含まれるし、どういう場でどのように売るのか、食べてもらうのかも視野に入ってくる。製造部門、営業部門、販売部門など、社内の各部署が一体となり、美味しいお菓子を作り、味わって喜んでもらうために最善を尽くしていく。「これでいい」というゴールがあるわけではない高みを目指していく道程と言える。