「もうムリ、ごめんね」50代独身ひとりっ子、年金15万円・80代の同居母を残し、生まれて初めて実家を離れた切実理由
高齢の親がいれば、だれもが心配する介護の問題。親と長く同居する子どもがいたら、いずれは親の介護の責任を背負うことに…。しかし、老親との関係に割り切れない思いがあったら? 実情を見ていく。 【早見表】国民年金・厚生年金「年金受取額」分布…みんな、いくら年金をもらっているのか?
母に支配され、自分の人生を生きられなかったひとりっ子
高齢化が進展する日本では、介護問題は他人ごとではない。一方で、戦後のような「子だくさん」の家庭は激減しており、介護を担う家族は限られている。 ――母から逃れようと思いました。 そう語るのは、50代会社員の女性、佐藤さん(仮名)。佐藤さんは独身で結婚歴もなく、15年前に父親が亡くなってからはずっと、今年80歳になる母親と、都内の実家で2人暮らしだった。 佐藤さんは短大を卒業したあと、一般企業に就職。「結婚するまで家を出るのは許さない」という母親の方針のもと、同居を強いられていた。 「両親から愛されたという実感はありません」 母親はとにかく世間体を気にする人で、佐藤さんの生活すべてを「世間はどう思うか」という視点から、がんじがらめに縛りつけた。父親は多忙で家庭には無関心。 「ほめられた記憶はなく、いつも批判されてばかり。両親から離れたくて、遠方の大学への進学を希望しましたが、〈女の子は短大で十分〉〈家から出すなんて危ないことは許せない〉と一点張りで、味方になってくれた高校の先生でも、説得できませんでした」 女性は母親の言いつけに従い、短大に進学。その後は、当時の多くの女性と同様、一般職として企業に入社した。 「友人との外食もすべて母親の許可が必要で、門限の9時を過ぎることは許されませんでした。泊りがけは許さないといって、旅行もNGでした」 そんななか、会社の同僚も、短大時代の同級生たちも、次々と相手を見つけて結婚していく。すると母親は、ずっとひとりでいる佐藤さんに〈もうじき30になるのに、一体何をやっているのか。結婚相手も見つけられない、恥ずかしい〉と、怒りをぶつけ始めた。 「母親の言いつけを守って生きていたら、これですよ…」 30代まではさまざまな葛藤があったというが、母親に抗しきれず、あきらめの境地に。そのまま50歳になるまで親子で暮らす道を歩んでしまった。 「母親は体が弱いのです。私が反抗するとすぐにベッドに倒れこみ、数日間は寝込むのです。〈仮病でしょ?〉なんていったら、もう大変。結局、こっちが折れるしか…」