〈中国民を落胆させた三中全会〉習近平が進める「市場改革」とは?人々が期待し、失望した背景
消えさった期待が経済低迷を加速させる
このように考えると、今回の三中全会にサプライズがなかったこともうなずける。12年の就任直後から目指してきたとおりの政権運営と改革を続けてきたのであり、今後もそれを踏襲するだけというわけだ。 問題は外部の期待の低下である。三中全会で打ち出される改革案は中長期をターゲットにしたもので、足元の景気低迷に即効性ある対策が打ち出されることはもともと期待されていなかったが、先の目標であっても人々の積極性を引き出す希望をもたらすチャンスではあったからだ。少なくとも13年の三中全会は勘違いがもたらしたものであれ、そうした熱気をもたらすものであった。 挽回の好機を逸した中国経済は今後、ずぶずぶと低迷が続くことが懸念される。今年上半期の国内総生産(GDP)実質成長率は5.0%と現時点では政府目標をクリアしているとはいえ、先行きを不安視させる統計も多い。
民間固定資産投資は0.1%増と低水準が続く。社会消費品小売総額(小売外食売上高に相当)は上半期3.7%増だったが、月単位で見ると下落傾向が見え始めている。特に6月の実店舗売上高は0.6%の減少でコロナ禍に舞い戻ったかのようだ。大都市の消費低迷は特に深刻化しており、北京市の社会消費品小売総額は6月には6.3%減と大きく沈んでいる。 不動産市場も悪化している。不動産市場の低迷自体は21年から本格化しているが、北京市、上海市、広州市、深圳市の主要4都市の中古住宅価格指数はあまり下げていなかった。価格が戻るのを待って売却を待つ売主が多かったためと考えられるが、今年に入って指数は大きく下落。前年比で約1割減にまで落ち込んだ。
我が道を行く習近平
『「イノベーション」が大好きな習近平 でも足元では……』(WedgeONLINE、2024年1月12日)で詳述したが、習近平総書記はイノベーションの推進で経済成長する姿勢を明確にしている。13年の三中全会と比べても、この点は大きく異なり、「新世代情報技術、AI(人工知能)、航空宇宙、新エネルギー、新材料、先端設備、バイオ医薬、量子技術など戦略的産業の発展性策とガバナンス体系を整備し、新興産業の健全で秩序ある発展を導く」「外資による中国でのエクイティ投資、ベンチャー投資の利便性を高める」「海外のハイレベルな理工系大学の中国における提携、設立を奨励する」といった改革案が盛り込まれた。 イノベーション一本槍で勝負という習近平路線。この状況にも慌てず動じず我が道を行く習近平総書記の胆力をほめたたえるべきなのか、それとも悪化する現実が見えていないと嘆くべきなのか。
高口康太