〈中国民を落胆させた三中全会〉習近平が進める「市場改革」とは?人々が期待し、失望した背景
期待がもたらした誤読
中国共産党の権力構造の変化はある。「早すぎる李克強の死 習近平との路線対立はあったのか?」(Wedge ONLINE、2023年11月6日)で取りあげたように、李克強前首相は「行政権限の縮小、管理強化、優良な行政サービスの提供」を意味する「放管服」政策の強力な推進者だったが、23年春の引退と同時にこの言葉は公式文書に用いられる数は減った。22年の党大会で誕生した、新たな体制は上層部を習近平子飼いの部下で固めており、より習近平総書記の”色“が打ち出されるようになったことは間違いない。 だが、そうした変化以上に見るべきは、「習近平総書記の路線は当初から現在まで一貫しているが、外部が誤読した」という可能性はないか。
13年の三中全会では「資源配置における市場の決定的役割」という一節が高く評価された。従来は「基礎的役割」という表現であり、市場化改革の徹底への決意を表明するものと認識された。今年の三中全会では閉会直後のコミュニケで「決定的」という文言がなかったため、一部で方針転換を示すものではと取り沙汰されたが、最終的に発表された改革案では「決定的」という言葉が入っていた。 また、同じく評価された表現として、13年三中全会の「公有制経済と非公有制経済(注:民間企業を指す)はともに社会主義市場経済の重要な構成パートである」との文言がある。こちらも公有制経済と非公有制経済への支持は「一切揺るがない」と同じ言葉で表現している。 一部報道は、今年の改革案に「過剰な所得制度体系の合理的に調節する」という一文があったことから、富裕層や証券会社職員への引き締めを示唆したものと読み解いていたが、実は13年にも「過剰な所得は調整する」との一文があり、さほど違いは見られない。 「言っていることとやっていることが違いすぎる!」と多くの人々が文句を言ってきた。もっと政府の権限を縮小して自由な民間経済を強化していくのではなかったか、と。ただ、習近平総書記の構想は当初から外部の見立てとは異なっていた可能性が高い。 「資源配置における市場の決定的役割」についても、労働力、土地、資本、技術、データの流動化を促進する要素市場改革はかなり力を入れて進めている。外部が想定していた市場化とは政府の権限を弱めることだったが、習近平総書記が想定している市場化とは、電気自動車(EV)やAIなど成長産業により多くのリソースをつぎ込めるような体制作りであった。 つまり、国家が強権を振るい企業活動に介入することと、市場改革は両立すると考えているように思える。