なぜ共産党なのか?習近平氏の出した答えが「強い中国」 垂秀夫前駐中国大使が解説する「四つの視座」とは【中国の今を語る(1)】
「中国は覇権を求めている」とよく言われるが、私は全く同調できない。中国は一切覇権をやっているつもりはない。中国は常にいじめられている、痛めつけられている、取り囲まれていると思っている。それへの対処が、昔のように弱い国だったときは、周辺国が「中国は被害者意識が強い」と思うぐらいだったが、今はこれだけ政治的にも軍事的にも経済的にも強い国になって、まだ被害者意識を持って、中国自身がそれを一生懸命ひっくり返そうとしている。 そうすると、われわれからは覇権的行為に見える。南シナ海や東シナ海での動きもそうだ。昔は、例えば沖縄県・尖閣諸島の周辺でも、公船を送る能力がなく、全部日本にやられたと思っている。南シナ海も、ベトナムやフィリピンに昔やられたと思っている。国際社会では、多くの人が「中国が領土を取りに行っている」と考えているが違う。中国はやられたと思っている。被害者意識だ、全て。ただ、力を持っている者がやり返したら、覇権に見える。中国の外と中で認識が全然違う。
経済大国になって、政治的にも力を持ってきたときに、どう見ても今は米国主導の国際政治経済秩序で、これは合理的でも公平でもないと認識するようになった。「グローバルサウス」と呼ばれる新興国・途上国にとって、とりわけ中国にとって、公平かつ合理的な秩序を作る必要があるという認識がある。 中国は、米国からあれだけ制裁関税を課された。自立したサプライチェーン(供給網)をつくろうとしているのは「経済産業の安全」の問題で、全ては「国家の安全」につながっている。自分たちを守るためだ。ただ中国からすれば「覇権」のつもりはなくとも、われわれからすれば、それは経済的威圧だ。 新型コロナウイルス禍で、中国は世界中にワクチンを配って「ワクチン外交」をやった。各国の指導者にとって、ワクチンを集めれば自分の支持率につながる。それで各国の内政を助けた。習近平氏は、アフリカなどのほぼ全ての途上国の大統領や首相と電話会談をした。米国も日本もやっていない。