なぜ共産党なのか?習近平氏の出した答えが「強い中国」 垂秀夫前駐中国大使が解説する「四つの視座」とは【中国の今を語る(1)】
鄧小平時代は国家の戦略目標である経済発展のために、安定した国際環境が必要で対米関係や対日関係も比較的安定した政策を採った。なおかつそれが社会の安定につながった。ところが、胡錦濤氏の時代になって、経済成長が減速しただけではなく、三つの大きな問題も出てきた。(1)腐敗汚職の問題が深刻化し(2)環境破壊がとてつもなく進み(3)経済格差があまりにも広がった。それによって社会不満も非常に強まった。 当局が発表している数字でも1日数百件の「群衆性事件」、いわゆる暴動、デモが起きた。2008年12月18日に、胡錦濤氏は「政権与党としての中国共産党の地位は永遠でも不変でもない」という極めて深刻なスピーチを行った。そこまでの危機意識があった。その後でバトンタッチされた習近平氏も同様の問題意識を持っていた。 それに対する習近平氏の答えは「中国を強くする」ということだった。高い経済成長はもう達成できないし、経済建設よりも大事なものは「国家の安全だ」という考えになった。あるいは「党の安全」や「体制の安全」だ。先の三つの問題に対しては、まず反腐敗を徹底的にやった。環境問題も大幅に改善した。経済格差については、貧困層対策をして「絶対的貧困」はなくなったと宣言し、富裕層に対しては「共同富裕」をスローガンに多額の寄付をさせた。
強い中国を目指し、国家の安全を守るための外交となると「戦狼外交」になる。だから対米関係でも対日関係でも衝突する。習近平氏は既に彼なりの答えを出しているが、彼の認識と、外から中国を見た時の認識のギャップが非常に大きい。 今、なぜ経済がここまで悪いかと言うと、この体制から来ている。かつての党の無謬性が、今は1人の無謬性になっている。たとえ経済政策を間違ったとしても、認めることはできない。経済低迷が体制から来ている以上は、政策転換に相当な時間がかかるし、それまでに大変な状況になるだろう。 ただ習近平氏からすれば、暴動も起きておらず「国家の安全」が保たれているので、国家運営はうまく行っていると考える。彼自身の答えとして今の政策に突き進んでいるのだから、今の中国を変えようとしても変わらない。 ▽覇権ではなく「被害者意識」 第4の視座は、1840年のアヘン戦争以降の被害者意識。なぜ中国があれだけ痛めつけられたのかということに対して、「あの時代には力がなかったからだ」という答えを出した。だからこそ「今は力が必要だ」という考えになっている。