なぜ共産党なのか?習近平氏の出した答えが「強い中国」 垂秀夫前駐中国大使が解説する「四つの視座」とは【中国の今を語る(1)】
第2の視座は、習近平氏の時代になって「一党支配」が「一人支配」になったこと。鄧小平氏は、本当は“ミニ毛沢東”にもなれたが、あらゆる自分の個人的権力、権威を使って集団指導体制を作った。集団指導体制なので、共産党トップが誰でも国を率いることができるようになった。一党支配だ。 ところが習近平氏がトップになった時に漢字で言えば「党」が「人」になっただけだが、全く似て非なるものになった。共産党は表面的には何も変わっていないにもかかわらず、政策決定過程は大きく変わった。最高指導部である「政治局常務委員」の7人は、党規約上は基本的に全員が同格だ。今は、習近平氏以外の6人は習氏の部下になった。以前は「班長制」と言って、7人にそれぞれの担当があった。今は習近平氏には担当がない。全てを担当するから。 しかし習近平氏も1人の人間で、1人で決められる能力も時間も有限だ。決められない部分が山ほどある。その決められない部分が一体どうなるのか。大きく分けて二つある。一つは、事なかれ主義で、待ちの態勢になる。何も決まらないから何もしない。もう一つは、きっと習近平氏ならこうするだろうと、いわゆる忖度。「事なかれ主義」と「忖度」がはびこることになる。
かつては党政治局員の誰かが間違っても、その1人の問題として処理することで、共産党としては誤っていないというストーリーがつくれた。党の無謬性。だが今は1人。その1人が誤ることはない、失敗することはないというストーリーになってしまい、神格化につながっていく。それでも1人支配の方が効率よく強い中国を作れるし、なおかつ、そうしないと、この危機を乗り越えられないと考えているのだろう。 ▽国家戦略目標が「国家の安全」に 第3の視座は、習近平氏にとって「国家の安全」が最重要になっているということ。つまり国家戦略目標が鄧小平時代の経済建設から国家の安全に変わったということだ。これが現代的意義にとって最も大切な点である。われわれが常に中国について見誤っているのは何か。中国を見るときに、どうしても“鄧小平中国”を想定している。だから「経済が悪い」とか「なぜ戦狼外交ばかりやるのか」という考え方になる。