プリキュア「生みの親」鷲尾天さんが語る、なぜ今『パンダなりきりたいそう』の”アニメ化”をやるのか…? その「意外なワケ」と「知られざる舞台裏」
「変身願望・なりきり」をアニメーションに!
鷲尾さんの絵本・児童書好きは幼少期の体験からきている。祖母と母が共に幼稚園の園長先生で、絵本が身近だったこと。母に読み聞かせをしてもらっていたこと。祖父母によくお話をしてもらっていたことだ。 「祖父母それぞれに、民話の持ちネタがあるんですよ。祖母のお話で覚えているのは、おばあさんが畑で『一粒、千粒なれーや』と歌いながらタネをまいているとタヌキがやってきて『一粒は一粒のままよ!』という話。それがおもしろくて、祖母の口調までそっくりそのまま覚えています。祖父は、夜中にお寺の和尚さんが小僧さんに隠れてこっそり餅を食べる話です。餅を食べるシーンが大好きで、何度も繰り返し話してくれとねだった記憶があります。だから子ども向けのアニメーションでは、食べ物をおいしそうに食べるシーンはできるだけ入れたくなりますね」 当時は3~4歳くらいで、「自分」というものを自覚しはじめると同時に、物語を通じて「自分じゃないもの」になること(なりきり)を楽しむ感覚をよく覚えていると鷲尾さんはいう。 「かくれんぼ遊びも子どもの変身願望の一種じゃないでしょうか。『僕の姿、見えないでしょう』とアピールすることは、変身の入口。そこから、身近な生き物やバナナや飛行機や……。自分がよく知る、自分が好きなものに『変身』することを楽しめるようになってきたとき、子どもは自らを発見し、喜びを感じるのでしょう」 そんな鷲尾さんの直感からスタートしたアニメ『パンダなりきりたいそう』。シーズン1の原作は絵本『パンダなりきりたいそう』で、バナナや飛行機のつもりになってパンダかわいらしい動きで体操。シーズン2は、絵本『パンダかぞえたいそう』を原作に、1から10まで数を数えながらいちごやゴリラになりきって体操する。シーズン3は、クイズを楽しみながらパンダと一緒に体操する『パンダなりきりたいそう~クイズたいそう~』を公開中。ほかにも、何かになりきって変身する喜びをアニメーションで描き伝える作品の公開が予定されている。 「やっぱりアニメーションだから音と動きで驚かせたい。単純な動きだけど、歌いながら体操して、親御さんが「きみは、今、バナナになったんだよ」「今度は、飛行機になれたよ!」と子どもに伝えてあげられたら、それは子どもにとってすごく心地いい“驚き”なんですよね。そんな“驚き”を表現できたら、世界できっと受け入れられるんじゃないかなと思います」 鷲尾さんの心の中には、祖父母の語りを聞いた幼いときのワクワクがある。子どもが嬉しくなる「わぁ!」という“自分発見の驚き”をちゃんと表現できれば、きっと小さい子どもたちは映像を繰り返し楽しむはず。そんな作品ができたら……。「『これはもっとたくさんの人に見てもらいたい!』となりますよね」と鷲尾さんは笑った。 アニメ『パンダなりきりたいそう』シリーズ ボンボンアカデミーととうあにパークにて、元気に公開中! いりやまさとし・講談社/東映アニメーション 〇鷲尾天(わしお たかし) 1965年生まれ。秋田県出身。秋田朝日放送などを経て、1998年に東映アニメーションに入社。『キン肉マン2世』や『釣りバカ日誌』などの担当を経て、プリキュアシリーズを立ち上げた初代プロデューサー。 2008年の『Yes!プリキュア5GoGo!』まで担当したあと、『ねぎぼうずのあさたろう』『怪談レストラン』『空中ブランコ』『トリコ』、そして『おしりたんてい』などのアニメ化に携わっている。 2024年、西尾大介監督とともに制作した短編アニメーション『あめだま』は、ニューヨーク国際こども映画祭で短編アニメーション審査委員最優秀賞と観客賞、チェコのズリーン国際子供・若者映画祭で子供短編部門審査員賞、イギリスのケンブリッジ映画祭で最優秀短編映画部門観客賞、オランダのシネキッド映画祭で国際短編部門グランプリ、札幌国際短編映画祭でジャパン・プレミア・アワード、キネコ国際映画祭で短編部門日本作品賞を受賞と、映画祭六冠を達成。 現在は同社執行役員・企画部エグゼクティブプロデューサー兼製作部長。
大和田 佳世(ライター)