プリキュア「生みの親」鷲尾天さんが語る、なぜ今『パンダなりきりたいそう』の”アニメ化”をやるのか…? その「意外なワケ」と「知られざる舞台裏」
自分たちも子どもの頃、アニメーションが喜びだった
そうしてスタートした『パンダなりきりたいそう』の3DCGアニメは、原作絵本のやさしく包み込むようなあたたかさを大事にしつつ、パンダのゆったりふわっとした動きと踊りたくなるような楽しい音楽で、子どもが何度見ても飽きないものを目指した。歌は「パンダパンダたいそう 1、2、3、4」♪と、跳ねるようにリズミカル。覚えやすくかわいらしいメロディで、気づいたら口ずさんでしまいそうだ(音楽『パンダ バナナくねくねたいそう』ROCO:Worldapartより)。 「映像化にあたり、フェルトで作られたような質感、原作の雰囲気を大事にしてほしいと制作スタッフに伝えました。3DCGで作っているので、実は、こんなふうにふさふさとした毛並みの表現がすごく大変なんですよ。一度はっきりした輪郭のキャラクターもできあがったのですが、原作者のいりやまさんが表現した、クレヨンで描いたような線の雰囲気を足していってほしい、動き方はシンプルでわかりやすいものでいいから、その代わり質感を大事にしてほしいと、そこは強く意図を伝えました」 アニメ業界では最近、ハイターゲット(10代後半対象)作品が増えているため、フルCGで作るのはかちっとした印象のものが多く、逆にふわっとした質感のCG表現は少ないというのが、現場の実情だ。 「でも制作現場の意思としては、幼い子どもたち向けのものにチャレンジしてみたい、というのは明確にあるんです。なぜなら自分たちも子どもの頃アニメーションを見て喜んだ記憶があるから、小さい子を喜ばせたいと。スタッフは苦労もあったと思いますが、チャレンジに前向きでした。すごくいい雰囲気で制作にのぞんでもらいました」
30年後、日本のアニメは世界で楽しまれているか
日本のマンガやアニメーションは海外で評価が高く、コンテンツ大国としての存在感は強い。しかし鷲尾さんが「各国のアニメ市場に食い込んでいくのは難しい」といったことは前述した。 鷲尾さんが語るには、昔の日本はアニメを海外に安く輸出していたため、欧米圏をはじめ世界各国で子どもたちが日本のアニメを楽しめていた。その子どもたちが大人になり買い付ける側になった今、「日本のアニメってよかったよね」と再び評価し、日本のアニメファンを世界中で増やしてくれる循環が起きているという。 ただ日本アニメのファンは、ここ数十年にわたって全体的に年齢層が上がり、広がり続けている。日本ではハイターゲットの人気作品が増え、結果、低年齢向けアニメは相対的に全体に占める割合が下がる。さらには世界各国で、自国でのアニメ制作が進んでいるという。 では、海外で制作され視聴されている幼児向けアニメはどんなものがあるのだろうか。鷲尾さんに聞いてみた。 「低年齢向けのものは、全体的にシンプルなものが多いです。イギリスのアニメ『ペッパピッグ』は、おしゃまなこぶたの女の子が主人公で、数を数えたり買い物したり。韓国発ペンギンが主人公のアニメ『ポンポン ポロロ』もシンプルです。同じ制作スタッフの『ちびっこバス タヨ』は働く乗り物のアニメーション。カナダ制作の『パウ・パトロール』は、困りごとを解決するため、少年と犬たちが毎回レスキューにいくというものです。YouTube配信のベビーアニメでは、韓国発のサメのアニメ『べイビーシャーク』がよく観られていますよね。シンプルな映像で、歌を一回聞いたら耳に残る。アメリカのシンプルなフルCGを使った『ココメロン』も世界中で再生されています。赤ん坊の日常を描いたもので、お父さんお母さんやきょうだいたちと歯みがきしようと歌ったりする。」 こうした潮流のなかで、鷲尾さんはどのような心境で、絵本「パンダたいそう」のアニメ化を決心したのだろう。 「ベビーを含む低年齢向けアニメで、これだけYouTubeの再生回数の多い成功例があるので、日本発でも何かできるのではと『パンダたいそう』のアニメ化、YouTube配信を提案したのです。今のうちに畑を耕してタネをまいておかなくては、という思いは常にあります」 「これはぜったいいい作品になる」という確信、熱意はどこから生まれるのか……。「直感としかいいようがない」と鷲尾さんは照れるが、そこでちょっと真面目な表情になってこう付け加えた。「いいな、と思うのは直感なんです。でもすごくいいけどビジネスにならないかな、どうしよう、とぐるぐる考えている期間が実はすごく長いんです」と。 子どもの頃に見たものは、大人になっても忘れない。いい日本のベビーアニメや幼児向けアニメがあってこそ、20年後、30年後もアニメを楽しんでもらえる。このままだと日本アニメの社会的地位、ビジネスは成り立たなくなるかもしれない……。鷲尾さんはそんな懸念も口にする。 「ただ、それは後付けで言語化したことで、映像化を思いつく瞬間はいつも、『子どもたちが喜んでくれるかも!』というワクワクする直感だけだったりするんですけどね(笑)」