<連載 僕はパーキンソン病 恵村順一郎>ぐるるっ ぐるるっ 人間と共生2千年 カエルは僕の先生 絶滅などしてもらっては困るのだ
パーキンソン病は、脳の神経細胞が減少する病気です。ふるえや動作緩慢、筋肉のこわばりといった症状があり、便秘や不眠、うつなどがみられることもあります。連載では、ジャーナリスト恵村順一郎さんが、自らの病と向き合いながら、日々のくらしをつづります。
【エッセイ編・病中閑あり】その14 カエル
パーキンソン病にかかってから、眠れぬ夜がままある。東京近郊のマンションに住んで30年になるが、ある夜、ふと気づいた。カエルの鳴き声がほとんど聞こえなくなったことに。 マンション沿いに用水路がある。かつてはそこがウシガエルの棲家(すみか)だった。一晩中、ヴォォォォーヴォォォォーとまさに牛のように鳴いていたものだが、それが消えたのだ。
僕は関西や博多で育った。つやつやした緑色のアマガエルや、緑と黒のまだら模様のトノサマガエルがいくらでもいた。小学校への登校途中に捕まえて学校の池に放した。カエルは幼かった僕の格好の遊び相手だったのだ。 いま思えば可哀想なことをしたものだが、冬に田んぼから冬眠中のカエルやドジョウを掘り起こし、バケツの水に漬けて目を覚まさせたこともあった。(子どもたちは真似をしないでね) 〈かえろかえろと/なに見てかえる。/寺の築地の/影を見い見いかえる。/「かえろが鳴くからかぁえろ。」(略)〉 北原白秋(1885~1942)「かえろかえろと」 〈蛙の夜廻り/ガッコ ガッコ ピョン。/ラッパ吹く そら吹け/ヤレ吹け ピョン。/ヤレ吹け もっと吹け ガッコ ガッコ ピョン。(略)〉 野口雨情(1882~1945)「蛙の夜廻り」 けれど昨今、朝夕の散歩の際に、カエルに出会うことはまずない。最近、カエルがいそうな田んぼや沼、公園などで探してみたが、影も形もなかった。 何人かの知人にも聞いてみた。みんな異口同音に「カエルかぁ、そう言えば見なくなったなぁ」と言うのである。 かねてカエルは人間にとって、世代を超え、時代をも超えて、最も身近な生き物のひとつだった。 自己改革を怠り、現状維持にあぐらをかく。そんなバブル入社組を「ゆでガエル世代」という。Z世代と言われる若者たちは、好きだった相手に好意を持たれた途端に引いてしまったり、嫌な面に幻滅したりすることを「蛙化(かえるか)現象」と呼ぶ。1980年代には、帰宅する前に妻に電話連絡をしようというNTTの「カエルコール」キャンペーンがあった。 日本で知らぬ人はほとんどいないだろうカエルがいる。 松尾芭蕉(1644~94)の〈古池や蛙飛こむ水のをと〉、小林一茶(1763~1828)の〈痩蛙まけるな一茶是に有〉の2匹である。