90万部突破『成瀬』シリーズの宮島未奈が、次回作の舞台に「婚活パーティー」を選んだワケ
今年の出版界を大賑わいさせた『成瀬は天下を取りにいく』。続編と合わせて90万部を達成する大ヒットとなった。著者の宮島未奈さんが続いて描くのは、一転して「婚活パーティー」の現場だ。なぜ婚活をテーマに選んだのか、作品に込めた思いを聞いた。 【写真】『婚活マエストロ』作者の宮島未奈さん みやじま・みな/1983年、静岡県生まれ。滋賀県大津市在住。京都大学文学部卒業。2023年に発売されたデビュー作『成瀬は天下を取りにいく』は2024年に本屋大賞を受賞。続く『成瀬は信じた道をいく』と合わせて90万部に達する大ヒットを記録
出発点は担当編集のアルバイト経験
――デビュー作ながら16冠を達成した著書『成瀬は天下を取りにいく』、続く『成瀬は信じた道をいく』が累計90万部を超えるヒットを記録している、宮島未奈さん待望の新作『婚活マエストロ』。伝説の婚活パーティー司会者・鏡原奈緒子を主人公においた物語です。 担当編集者が大学時代に婚活パーティーの司会のアルバイトをしていたんです。それで「宮島さんの書いた婚活の話が読みたい」とオーダーされました。編集者がいた会社はまさに作中の「ドリーム・ハピネス・プランニング」のような古めかしい会社で、その体験談を聞くうちに「なんとなく書けそうだな」と思ったのがはじまりです。 ――そこで働く鏡原奈緒子は40歳の独身女性で、彼女のおかげでマッチング率が高い、と話題になっている名物司会者です。自己紹介シートの上手な書き方や、お年寄りだらけのシニア婚活パーティーなど、最近の婚活がリアルかつ愉快に描かれていきます。 取材はほとんどしていないんです。ネットでちょっと調べたり、テレビで婚活の番組を見たりしたくらい。あまり調べすぎると創作に縛りができてしまうので……。それに現実とあまりにもかけ離れていたら、編集者から「ここが違う」というツッコミが入ると思っていたんです。それがなかったので、おかしなことは書いてないという自信になりました。 ――視点人物は、40歳独身ライターの猪名川健人。彼は取材をきっかけに自らも婚活に取り組むようになり、鏡原さんと行動を共にします。健人が取材なしでネットの情報をまとめる、いわゆる「こたつ記事」を書いて生計を立てているあたり、今風な設定ですね。 これは逆に、私自身がこたつ記事を書く仕事の経験があるので、リアリティが生まれているんだと思います。作中の「ふるさと納税の比較サイトの比較サイト」は創作ですが、そんな感じの記事を量産していましたね。 健人を40歳にしたのは、婚活に必死になる年齢だから……というわけではなく、私が『成瀬』を出版したのが40歳の年で、「40からでも人生は変わるんだ!」という実感を持ったから。書き進めるうちに、想定以上に健人の「成長物語」になっていきました。 視点人物を伝説の司会者当人ではなく健人にしたのは、面白い存在を語るには、その隣にいる人に特別さ、唯一無二さを語ってもらったほうがわかりやすいからです。これは『成瀬』の視点人物を成瀬本人ではなく、友人の島崎にしたのと同じ手法ですね。