90万部突破『成瀬』シリーズの宮島未奈が、次回作の舞台に「婚活パーティー」を選んだワケ
浜松が舞台になったワケ
――連続する6編で様々な婚活シーンが描かれますが、特に健人が参加する琵琶湖クルーズ婚活バスツアーの回は秀逸です。話の合う落ちついた女性・あきなと、荒唐無稽なことを言うMOMOの間で揺れ動く健人の心理描写が切実ですし、大津市の様子が描かれるのは『成瀬』ファンへの最高のサービスですね。 婚活バスツアーは当初から描きたくて、実は今作の舞台が浜松市なのは「滋賀にバスツアーで行ける距離」から逆算した結果なんです。 MOMOちゃん、読者の方に大人気なんですよ。「パクチー好きの一見痛い女の子」を登場させたのは、インパクトのあるキャラクターがいたほうがいいと思ったから。後に登場する婚活初心者のマンガオタク・池田さんも、そんな狙いの一人です。 ――健人が女性との食事の場所にイタリアンチェーンの「サイゼリヤ」を選ぶ場面は、ネットで恋愛初心者をからかうネタにされがちな「サイゼリヤデート」を意識されたのかと思うのですが。 サイゼリヤって、ちょっと「下に見られている」ようで、気になっていたんです。滋賀も関西で下に見られることが多いので、そこは似ているように思います。でも反対にサイゼリヤのことを「安くて美味しくて最高!」と過剰に持ち上げるのも違う。 日本中の地方都市で、地元の人が普段使いする、いろんな人生のできごとの舞台になっている場所として、カップルが普通にイタリアンプリンとティラミスを注文する姿を描きたかった。 過剰に褒められるといえば、『成瀬』の舞台ということで滋賀県大津市に「聖地巡礼」される方も増えました。嬉しい一方で過度に持ち上げられるのも複雑です。私にとっては日常生活の場で、だからこそ『成瀬』の舞台にしたので。地域が盛り上がるのは嬉しい反面、「滋賀を背負わされすぎではないか」という戸惑いもあります。 ――ラストにかけて、鏡原さんが持っていた「ある能力」を失って戸惑うところから、スパートがかかっていきます。映画『魔女の宅急便』で主人公のキキが魔女の力を失う展開を思わせますね。 たしかに『魔女の宅急便』は多少意識しています。 婚活って、行動や相手にしろ、いろんな選択肢のなかから選ばなくちゃいけない。その分岐の難しさはもしかすると物語も同じで、いろんな分岐があるなかで、作家の私が選ばなければいけない、とこの作品で実感しました。鏡原さん、健ちゃんのラストは、何回も書き直しましたね。 今の私は、『成瀬』が売れすぎたせいで、かえってプレッシャーがない状態なんです。だから、自分が思うまま、好きなものを書ける。『婚活マエストロ』も、思った以上に楽しく読んで頂いているようで、また楽しく次の作品に向かっていきたいと、気楽に思っています。 (取材・文/伊藤達也) 「週刊現代」2024年11月30日号より
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