「高校時代のことはもう捨てています」5000m“異次元の高校記録”保持者の苦悩…伊勢路には姿ナシ「元スーパー高校生」順大・吉岡大翔(20歳)の現在地
遠くまで飛ぶためには、より長く助走をとったほうがいい。 かつて「スーパー高校生」と騒がれたトップランナーの走りに触れて、思わずMr.Childrenのメロディーが脳裏をよぎった。10月中旬、夏を思わせるような東京・立川で箱根駅伝予選会を走った順天堂大の吉岡大翔(2年)は今まさに、そんな「助走期間」にいるようだ。 【写真で比較】「あ、垢抜け過ぎじゃない?」5年前、「長野の中学生」時代の吉岡大翔と「モデル顔負け」スマートなスタイルの現在…名門・佐久長聖高時代の“無双状態”の激走シーン&「1秒差の明暗」だった箱根駅伝予選会の現地写真も見る
わすか1秒差で…分かれた明暗
2025年1月2、3日の箱根駅伝出場権を巡るボーダーラインに立つ2校の命運を分けたのは、わずか1秒だった。笑ったのは順天堂大。泣いたのは東京農大。純粋なタイム差では予選会史上最小差での決着となった。出場圏内の10位に滑り込み、長門俊介監督は目を真っ赤に腫らしながら、記者たちの質問に答えていた。 ふと隣にある白いテントのなかが視界に入った。出場を決めた伝統校のランナーたちがホッとした表情を浮かべるなか、目頭を押さえて顔をしわくちゃにしている小柄な選手がいた。吉岡である。指揮官の話に耳を傾けていると、この日の吉岡の走りに関する質問が出た。 長門監督は苦笑混じりにこう答えた。 「状態がすごくよくて、いい練習をできていた。今回は本人もしっかり戦えそうだと手応えを感じていたので、それでフリーで行かせましたけど……手応えはあったんですけど、それを今日は出せなかったですね」 吉岡は、ハーフマラソンの上位10人の合計タイムで競う予選会を突破するためのキーマンだった。エントリー時の1万m資格記録28分46秒96はチーム3位。エースで4年の浅井皓貴とともにフリーで走らせることで日本人の先頭集団で競わせ、合計タイムの「貯金」を作る作戦である。中団に3人、そして残り7人が5km毎を15分15~20秒のペースにタイム設定した集団走で手堅くまとめる。順天堂大はそんなレースプランで戦う算段だった。 だが、吉岡のピッチが上がらない。スタート時に23.2度だった気温は強い日差しのなかでみるみる上昇。25度の夏日となる異例の暑さのなかで、5km通過時点で並走していた浅井に後れを取り、7km地点から後退していった。汗を大量にかき、腕の振りにも普段の鋭さがない。10kmから15kmは16分12秒も要してしまった。 吉岡は、その苦しい道中に抱いていたという罪悪感を明かす。 「前半、行き過ぎちゃったのかなと思って。自分の中でも焦ってしまいました。走っている時に『10位』とか『11位』とか声が聞こえて、自分のせいでこんな順位なんだなと思いながら走っていました」 自信を持ってスタートを迎えたはずだった。だが、一度狂った歯車は噛み合うことなく、21.0975kmを走りぬいた。全体で98位の1時間5分53秒でフィニッシュ。不振のなかでもチーム4位のタイムだった。 順天堂大は15km時点で、出場圏外の12位まで落ち込んだが、終盤に盛り返して14年連続66回目の出場を決めた。吉岡の失速は苦戦の“元凶”のようにも映るが、それは違う。吉岡自身は「中間地点の前からキツくて、『まだ10kmあるのか』という感覚でした」と明かすほどの不調だったが、そんな時こそ心を試される。目いっぱい走っているペースを落とせば、体も呼吸も苦しさから解放されるからだ。そんな状況でも持てる力を振り絞り、思うに任せない足を前へと進めていった。 そのことはレース後の受け答えで見せた態度からも明らかだった。1秒差で出場権を得られたことについて訊かれると涙ぐみながらも、きっぱりと言った。 「本当に自分自身、最後まで諦めずに走れてよかった。自分以外の他の選手、監督をはじめ、応援してくださる方々のおかげで摑んだ1秒だと思っています。本来なら、自分が1分も2分も稼がないといけない。でも、順大の11番手に抜かれるまでは、自分のタイムが結果に繋がるんだから、とりあえず粘ろうと思って。そこで諦めていたら、この1秒はなかったので」 そう言うと、冗談めかして笑った。 「自分に感謝かなと」
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