「高校時代のことはもう捨てています」5000m“異次元の高校記録”保持者の苦悩…伊勢路には姿ナシ「元スーパー高校生」順大・吉岡大翔(20歳)の現在地
5000mで「異次元の高校記録」…超高校生ランナーだった吉岡
吉岡は将来を嘱望される日本陸上界の気鋭のランナーである。 衝撃の走りを披露したのは長野・佐久長聖高3年時だ。22年11月、日体大記録会5000mで外国人勢を向こうに回してレース終盤、トップに立つ快走をみせた。13分22秒99をマークし、佐藤圭汰(京都・洛南高、現駒澤大)が持つ記録を8秒以上も更新する高校生新記録を樹立した。 その後も好結果を出し、順天堂大に進学。ルーキーだった昨年、9月の日本インカレ5000mでも日本人トップの14分00秒43で走り、存在感を示した。 だが、ロードレースのシーズンに入ると長い距離への対応に苦慮し、3大駅伝の結果からも試行錯誤の跡が窺える。 ◆出雲駅伝 1区11位 ◆全日本大学駅伝 3区14位 ◆箱根駅伝 4区8位 吉岡自身も「去年は全然、走れていませんでした」と明かす。この1年で練習量が格段に上がった。駅伝シーズンに備えた走り込み時期の今年8月、月間走行距離は約950kmだった。昨年の同時期に比べて200kmほど増え、距離に対する不安も解消されつつある。 「試合ではなかなかうまくいかないのですが、練習自体はできていると思います」 吉岡はこれまでトラックレースで実績を残してきたが、順天堂大ではトラックに特化せず、ロードレースにも積極的に出場している。長門監督は長距離への適性も見いだしており、その強化方針は明確だ。 「高校時代に5000mで日本高校記録をつくった。あのタイムは凄い。ただ、あれを追うのではなく、大学では1万mやハーフマラソン、箱根駅伝で結果を出してほしい。じっくり距離を踏んでいく、練習量のボリュームを増やすことは、彼には今までありませんでした。長い目で見た時に必ずトップクラスになる選手だと思いますし、将来的にはトラックで勝負したいのは間違いないですが、今はその幅を広げているところです」
「元祖・山の神」が吉岡に思うこと
今年4月には同校OBの今井正人がコーチに就任した。箱根駅伝5区で3年連続区間賞に輝いて「元祖・山の神」の異名をとり、07年に同期の長門監督とともに優勝を果たした名ランナーだ。トヨタ自動車九州時代にはマラソンを2時間7分39秒で走った今井は、吉岡の現状をこう見ている。 「彼は世界で戦える能力があり、そういう存在だと思っています。それを引き出せてあげられていないのは、私たちもいろいろと考えないといけない。彼が一番苦しんでいると思います。 ただ、彼自身、とんとん拍子で上がっていくのもいいのですが、この先の伸び率を考えれば、この苦しみがあるからこそ、走れた時の喜びを感じられる。そういうことを知って強くなる方が、選手としても人間としても厚みが出ると思います」 吉岡にとっても、今井の存在は大きいものになっている。今夏は走り込み期を終えると食欲がなくなり、体重が3kgほど減った。その影響なのか、ジョグをこなせても、ポイント練習の後半で失速するなど不振が続いた。そんな時、今井から声をかけられた。 「これをご飯にかけて混ぜるとおいしいから是非、食べてみて」 勧められたのは5種類ほどのふりかけ。ご飯にかけて食べると、食欲を取り戻し、体重も回復し、復調した矢先に迎えたのが今回の予選会だった。 吉岡は今井に感謝する。 「落ち込んだ時に声をかけてくださるのがありがたいですね。自分ひとりで戦っているんじゃないんだ、と。同じように悔しがってくださる。孤独感が薄れて、自分の心の面でも支えになってもらっています」
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