開発進む月面探査車、ゴムも空気も使わない「極限環境のタイヤ」とは? アルテミス計画で活動目指す、日本企業の挑戦
砂漠で荷物を運ぶラクダのふっくらとした足裏から着想を得て、表面は金属を不織布のように加工した金属フェルトで覆う。地表に接すると広がり、さらに圧力を分散させる。摩擦力が高まり、走破力の向上にもつながるという。ばね状のステンレスを編んだ第1世代から、走行性や耐久性を向上させるため抜本的に構造を見直したが、フェルトを使う発想は引き継いだ。 ▽宇宙のキャンピングカー ブリヂストンのタイヤが採用を目指しているのが、宇宙航空研究開発機構(JAXA)とトヨタが開発を進めている探査車「ルナクルーザー(愛称)」だ。 ルナクルーザーは飛行士が宇宙服なしで乗れ、生活しながら月面の広範囲を移動できるキャンピングカーのような〝宇宙船〟だ。2031年に打ち上げ、10年間で1万キロを走行することを想定している。 探査車の開発には、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」の建設などに関わった三菱重工業も協力。宇宙服なしで生活できる「与圧」の技術開発などで連携する見通しだ。JAXAの山川宏理事長は「人類の活動領域を大幅に拡大する役割を、日本が担うことになる。オールジャパンの体制を構築したい」と意気込む。
月面を走る車には前例がある。米アポロ計画では、電池で動くオープンカーのバギーが活躍した。1971~72年に3台が月面に送り込まれ、うち1972年のアポロ17号のミッションで使われた1台は、約4時間半をかけて最長となる約36キロを走った。ルナクルーザーとは走行距離や重量の想定が異なり、そのまま当てはめることは難しいが、金属製タイヤの開発でも参考になったという。 ▽環境再現には限界も ブリヂストンがデータ取得のために利用しているのは、鳥取砂丘の「ルナテラス」という施設だ。敷地は約5千平方メートルで、目的に応じて自由に造成可能なエリアもある。試作品の金属製タイヤを使い、どのような抵抗が生じるのかや、長距離を走った際に受けるダメージなどを確認している。 かつてはバイク競技用のオフロードコースに砂をまいて利用したり、許可を得た上で海岸の砂浜を走らせたりしていたという。だが広さが十分ではなく、流木などの漂流物にも悩まされた。弓井さんはルナテラスについて「月面に近い環境でタイヤの性能を評価できる貴重な場所だ」と話す。