開発進む月面探査車、ゴムも空気も使わない「極限環境のタイヤ」とは? アルテミス計画で活動目指す、日本企業の挑戦
アポロ計画から半世紀以上を経て有人月探査を目指す、アメリカ主導の「アルテミス計画」。2026年に宇宙飛行士2人が月面着陸する見通しで、28年以降には日本人の宇宙飛行士2人の着陸も想定されている。この計画に、日本は有人探査車の開発で貢献することになっている。 【写真】なぜ日本がアメリカ以外で初めて月面着陸する国として選ばれたのか? 「アルテミス計画」探査車開発の見返りに得た切符と、米中競争の影
しかし、月面には大気がなく、細かい砂に覆われているなど、地球とは環境が大きく異なる。私たちがイメージする「タイヤ」を付けた車では走行できないのではないか? こんな難題に、日本のタイヤ大手ブリヂストンが取り組んでいる。試行錯誤の末にたどり着いたのは、ゴムも空気も使わないタイヤ。「人類が活動する極限環境に挑戦したい」というものの、いったいどんなタイヤなのだろう?(共同通信=七井智寿) ※記者が音声でも解説しています。「共同通信Podcast」でお聴きください。 ▽月面でゴムはカチカチ、ボロボロに ブリヂストンの開発担当弓井慶太(ゆみい・けいた)さんは、月面環境の過酷さをこう強調する。「夜は氷点下170度にもなる環境で、ゴムはカチカチになる。さらに地上の200倍という宇宙放射線にもさらされ、ボロボロになってしまう」。その上、大気がないため、荷重を支える空気を内部にとどめることができず、再充塡も難しいと話す。
地上で一般的なゴム製タイヤは、月面にはどうやら不向きなようだ。 さらに月面は「レゴリス」という細かな砂に覆われている。滑りやすく、重いタイヤは沈んでしまうため、軽量であることも重要だ。月に輸送可能な重量は限られており、タイヤが大きく重いほど、探査に必要な他の物資が輸送できなくなってしまう。打ち上げ重量が1キロ増えると、コストが1億円増えるという試算もあるほどだ。 ▽オール金属 そこで着目したのが、環境の変化に強く、空気に頼らなくても荷重を支えることが可能な「オール金属」というコンセプト。素材や構造の工夫次第で「大きな荷重をより軽く支えられ、砂に埋まらない走破力も実現できる」と弓井さんは話す。 2019年から開発に着手し、現在はステンレス製の第2世代で試験を重ねている。接地面とホイール部分をつなぐパーツが荷重を受けるとたわみ、接地面積が増えて圧力を分散させる仕組みを採用。細かい砂質や起伏ある地形が月面に似ている鳥取砂丘(鳥取県)を何度も走らせ、耐久性などを確認している。