「能登地震の復興は東日本に学べ」元復興庁・岡本全勝さんの提言 町を元に戻しても人は戻らず #知り続ける
「東日本」の再建実例を首長や議員、住民に見てほしい
「能登の被災地の方は、これからどのように住宅や町を再建したらよいか、途方に暮れておられるでしょう。ぜひ『東日本大震災に学べ』ということをお伝えしたい。すでに370カ所の実例がある。それを能登の首長や議員、住民に見て回ってほしい。そして、どのように議論して計画を作ったかという過程とともに、現在の状況を見てほしい。13年も経てば高齢化や人口減少も進む。その現場を見てもらう。そうすれば、自分たちの町の再建にふさわしいのはどういうものかがわかると思うのです。最後に決めるのは住民と、彼らを代表する市町村長と議会の決断です」 重要なのは「住民に現場を見てもらう」ことだ。集まって議論をすると現実的なプランよりも理想論が先行してしまいがちだと岡本さんは指摘する。
「何の情報もなく住民に意見を聞けば、必ず『戻りたい』と言うでしょう。そうなると行政もノーとは言えない。地元の議員も市町村長もそう言うでしょう。首長だって住民にとって良いことを言いたがる。でも、それが現実的なのかどうか。東日本大震災のとき、岩手県のある市長が『人口が1.2倍に増える』という再建案を作りました。『それは無理だ』と私が言うと、『わかっています。でも、市長たるもの、夢を見せたい』と答えました。でも、現実的な指摘をすべきだったと今は反省しています。その経験の上に立って、今回は『東北を見に行って、現実的に考えてくれ』と言うのが、国の仕事です。国が選択肢を示すことはできます。しかし、選ぶのはあくまで地元です」 「地元の人たちからは、厳しいと思われるでしょうね」と岡本さんは被災地を慮る。それでも、東日本大震災からの10年間を行政の立場で見てきた責任者として言わねばならないと覚悟を持って語る。 「能登地域の復興には、東日本大震災を前例として参考にしてほしい。私がそれを強く言えるのは、震災からの復興現場をずっと見てきたからです。将来を見通して、どのように街を復興すれば住民が暮らしやすくなるか。そのことを伝えるのは、私の義務だと思っています」 --------- 小川匡則(おがわ・まさのり) ジャーナリスト。1984年、東京都生まれ。講談社「週刊現代」記者。北海道大学農学部卒、同大学院農学院修了。政治、経済、社会問題などを中心に取材している。