「能登地震の復興は東日本に学べ」元復興庁・岡本全勝さんの提言 町を元に戻しても人は戻らず #知り続ける
初動から復旧へ 地元への愛着と生活環境との折り合い
1978年に自治省(現・総務省)に入省した岡本さんは、2011年の東日本大震災の発生後に政府の被災者生活支援本部の事務局次長に就任すると、そこから約10年間、東北復興の仕事に継続して当たってきた。2012年に創設された復興庁では統括官(局長級)を経て、2015年に事務次官に就任。翌年からは福島復興再生総局の事務局長と安倍政権の内閣官房参与も務めた。震災からの復興に向けた政府の取り組みの中で、難しい任務を担ってきた第一人者だ。
災害発生から復興までには、さまざまな過程があると岡本さんは言う。まず「緊急対応」で、発災後72時間以内を想定した「初動」と「応急」がある。初動では「情報収集」「救助・救急」「消火・医療」、応急では「避難所運営」「生活物資提供」を行う。緊急対応の後は「復旧」と「復興」の段階に移行する。復旧では「ライフライン復旧」「仮設住宅」「生活再建支援」、復興では「まちづくり計画」「産業・生業再開」「コミュニティ再建」を進める。 1月末時点での能登の現状は「応急」から「復旧」の間に位置づけられるだろう。1月12日に仮設住宅の建設が輪島市や珠洲市で始まったが、被災地域のインフラが整わないなかでは、予定通り進まない可能性もある。
「仮設住宅には、新しく建設する『プレハブ仮設』と、既存の公営住宅や賃貸住宅の空き部屋を借りる『借り上げ仮設(みなし仮設)』があります。東日本大震災の際はプレハブ建設が5万戸、借り上げが5万戸と半々でした。今回の能登半島地震でも、プレハブ仮設を建てるのに適した場所があまりないようで、借り上げ仮設が重要になります。プレハブ仮設はずいぶん住みよくなりましたが、しょせんはプレハブです。住みやすさと立地条件は、借り上げ仮設の方が優れています。私としては、地元からは少し離れたとしても、借り上げ仮設のアパートに入ったほうが住宅環境も周辺環境もいいと思います。しかし地元を離れられない方、離れたくない方も多いでしょう。難しいところです」 実際にプレハブ仮設への入居希望者は多い。珠洲市では2500戸の建設が予定されているが、すでに1478件の申請がある(1月25日の1次募集締め切り時点)。報道によると、借り上げよりプレハブ仮設を望む背景には「生まれ育った地域を離れることへのストレス」や「孤独を感じてしまう」ことがあるという。 「地元から離れたくない」という住民の気持ちと、現実の生活環境の水準との間でどうやって折り合いをつけていくか。これが、当面の仮設住宅暮らしのポイントとなる。