「能登地震の復興は東日本に学べ」元復興庁・岡本全勝さんの提言 町を元に戻しても人は戻らず #知り続ける
復旧・復興は「三つの地区」に分けて考える
能登半島地震では、今後の復興をどう考えていけばいいのか。岡本さんは、まずすべてを災害以前の状態に復元するという考えは現実的ではないだろうと指摘する。その根拠は東日本大震災での経験だ。 「復旧・復興というとき、インフラを復旧させ、住宅をつくるだけでは十分な生活を成り立たせる環境にはなりません。東日本大震災では『元に戻す』という発想でやりました。でも結果としては、うまくいかなかったところもあった。決まった予算の範囲内でという考え方ではなく、『地元にとって必要なことをする』という方針で、多くの町を復旧させましたが、時間が経っても人は戻らなかったんです」 その上で、「能登半島を一つで考える議論をしてはいけない。大きく三つの地区に分けて考えるべきだ」と言う。具体的には「市街地」、そこから離れた「小さい集落」、その中間にある「中心集落」の三つだ。
「街や集落が元に戻るかどうかは、住民の意思と地域の条件によります。住民の意思とは、ここに住み続けたいと思う意思です。地域の条件とは、働く場所があるかどうかと、後継者がいるかどうかです。『市街地』は修復するでしょう。輪島市などでは火災もありましたが、市の中心部は地域住民の生活を支えているので復旧できると思います。『中心集落』というのは、若者も住んでいて一定の雇用があるところで、その町自体に雇用がなくても、仕事先まで通える地域も含みます。そこも復旧するでしょう。問題は『小さい集落』です。高齢者数人しかいないとか、跡を継ぐ子どももいない『小さい集落』については、難しいと思います。今後さらに住民が減少し、共同体の維持も難しい。できれば、市街地や中心集落に生活拠点を移してもらう。ある程度の『選択と集中』『復旧の優先順位』が発生するのは避けられないでしょう」 岡本さんがこうした考えに至った背景には、東日本大震災での反省がある。1995年の阪神・淡路大震災のとき、まだ日本は人口が増えていた時代だった。そのため、道路などのインフラを元通りに復旧させるのが基本的な復興の哲学だった。ところが、2011年の東日本大震災のときには、人口が減少に転じる時代に突入していた。このときもすでに「再建は厳しい」という声があったが、地元の声が優先された。