「スープは家に置いてくる」と約束、環境保護団体がイギリスの美術館評議会に話し合いを要請
著名なアート作品にスープをかけるなどの過激な抗議行動を通して環境保護を訴えてきた環境団体「ジャスト・ストップ・オイル」は、「スープは家に置いてくる」という約束のもと、公開書簡を通じて、イギリスの美術館評議会「National Museum Direcotor’s Coulcil(NMDC)」に話し合いの場を設けるよう呼びかけた。 ジャスト・ストップ・オイルによる申し出は、アート・ニュースペーパーで公開された書簡に記されたもので、NMDCによる同抗議団体の活動を批判する書簡への返答でもある。ジャスト・ストップ・オイルによる書簡は以下の通りだ。 私たちがこれまで起こしてきた行動は、恐れと憤りを抱きながらも、理想とする未来を妥協せず追い求める一般市民によるものだ。国の機関が本来果たすべき役割を全うしていないと判断した場合、われわれ国民は、文化の力を恐れることなく利用する。私たちは文化施設との関係性を改善する手段をいくつか思いついた。翌週、ナショナル・ギャラリーで話し合うことはできないだろうか。石油とガスの使用中止を求めて、自由を賭けて行動を起こした人たちがいる。私たちは、ナショナル・ギャラリーの館長であるガブリエル・フィナルディ博士とぜひ話し合いたいと思っている。 書簡で言及されているナショナル・ギャラリーでは10月9日、ユース・デマンドの活動家2名が、2023年10月7日以降にイスラエルによってガザ地区で殺害された家族を追悼して、パブロ・ピカソの絵画《母性(La Maternité)》(1901)の保護ガラスにパレスチナ人母子の写真を貼り付けるという抗議行動を行った。ユース・デマンドのInstagramアカウントに投稿された動画には、美術館の警備員がガラスから写真をはがし、その場から活動家を強制的に連行する様子が映っている。 NMDCは、ゴッホの《ひまわり》に対してトマトスープを投げつけ行為をはじめとする5件の抗議活動を例に取り、ナショナル・ギャラリーにおけるデモ行為を中止するよう、10月11日に発表された公開書簡で求めた。この書簡は、《ひまわり》にスープを投げつけた活動家2名に実刑判決が言い渡された1時間後に公開されており、次のように書かれている。 ジャスト・ストップ・オイルによる行為は、国内の美術館・博物館の評判を大きく毀損するものであり、文化施設で働く人々に多大なストレスを与えている。また、過激化するアートアタックにより、国内最高峰の博物館や美術館に安心して足を運べなくなった人々も存在する。世界には暗雲が垂れ込めており、人々に希望と安らぎを与え続けるためにも、活動家によるこの種の行為は排除されなければならない。 一方、ジャスト・ストップ・オイルは書簡で、NMDCが「緊急を要する気候変動」への対応を怠っており、「国宝の管理者」としての責任を果たしていないと非難しており、こう続けている。 NMDCは現在、作品にスープが投げつけられたり、ステッカーが貼られたりすることを問題視しているが、近い将来にはテムズ川の増水や都市部の猛暑など、気候変動の対策に迫られることとなるだろう。私たちは、世の中には何の問題もないという幻想を打ち破るために、博物館やギャラリーで抗議活動を行っている。今こそ、文化施設が正面から責任と向き合わなければならない。 また、ユース・デマンドは、イスラエルに対する武器の双方向禁輸と、2021年以降に付与されたすべての石油・ガス採掘権の終了をイギリス政府に要求しているほか、11月11日より他の都市でもさらなる混乱が予想されると、SNS上で警告している。 こうしたなかナショナル・ギャラリーは、粉ミルクや調整入、処方薬を除くすべての液体物の持ち込みを禁止すると発表しており、次のようにXに投稿した。 「展示室内で発生した事件を受け、美術館を訪れるすべての人々、ナショナル・ギャラリーのスタッフ、そしてこの国の絵画コレクションの安全を確保するために、より厳重な安全策を導入しなくてはなりません」(翻訳:編集部)
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