百貨店は客・従業員をどう守るのか? 「集客」と「3密回避」のはざまで【#コロナとどう暮らす】
3社は、これらの指針を踏まえ、店内ではレジでの飛沫防止シートの設置、買い物かごなど備品の消毒、清掃を徹底するほか、従業員には手洗いや消毒、マスク着用の徹底や出社時の検温を実施するなどの策を講じています。来店客にも、マスク着用やソーシャルディスタンスの確保などの協力を求めるとしています。
セールで「3密」を回避するには?
冒頭のコメントには「百貨店は、落ち込んだ売り上げを巻き返すために、セールを打ち出して集客するはず。セールは必ず3密になりデパートに換気窓はありません」とセールによる3密の発生を危惧する内容も含まれていました。 実際にセール開催の予定はあるのでしょうか? 取材に対し、3社とも「感染防止策を講じた上でセールを開催する」と回答しました。三越伊勢丹の広報担当は「セールは全店一斉にスタートするのではなく売り場やブランドごとに展開するとともに、オンライン上でも同様のセールを開くことで分散化を図り、お客様が特定の場所に密集しないように努めます。催事の開催も安心・安全の確保を最優先に検討し、対応が難しい場合には延期か中止とします」と話しています。 高島屋でも、今年はセールを全館一斉に開始するのを止め、売り場やブランドごとに実施する方針。大丸、松坂屋も、全館一斉にセールを開催することはせず、ブランドごとに開催するなどセールの分散化を図るとしています。
いまは「耐え時」、今後は?
「3密を防ぐノウハウは確かに積み上がってきました。しかし、百貨店は、販売促進に力を入れてお客様を呼び込むスタイルでこれまでやってきました。いまはそれをほぼ行っていませんので、売上の数字は上がりません。いまが我慢のしどころ、耐え時です」 こう語るのはJ・フロントリテイリングの広報担当です。 同社は5月27日に全店で全館営業再開して以降の売上高が、前年の同じ時期と比べて約30%減にとどまるそうです。他の2社も足元の業績が厳しいのは同様で、高島屋の5月27日~31日の売上高は前年の同じ時期よりも約25%減、三越伊勢丹ホールディングスの5月30日、31日の売上高も20%減でした。三越伊勢丹の広報担当は「お客様には、まだ不要不急の外出を控える傾向があるとみられ、6月以降も昨年と同様の来店やお買い上げは厳しいと見られます」と予想します。 集客による売上拡大が見込みにくいなか、3社が期待をかけるのはネット通販です。各社とも、ネット通販の売上高は現時点で売り上げ全体の数%にとどまりますが、今後拡大を図ります。高島屋では4月10日から自社オンラインストアで北海道展、九州展、東北展の3つの物産展を始めました。店での物産展中止に伴うもので、広報担当は「お客様が楽しみにしている企画であり、取引先との共存共栄を図るためにも、形を変えて実施することにしました」と語ります。 J・フロントリテイリングでは、4、5月の臨時休業中は、ネット通販の売上が前年比で倍増。特に化粧品が堅調で、「ブログやメールを駆使してお得意様との関係をデジタル面で強化したい」と広報担当。お中元シーズンを迎え、得意先には来店せずにネット通販で購入するよう働き掛けているとのことです。 三越伊勢丹ホールディングスでも、5月のネット通販の売上高が前年比で1.4倍に。特に、ケトルなどのキッチン雑貨は約3.5倍になりました。これについて、広報担当は「家にいる時間が長いと料理をする機会も増えるため、百貨店らしいスタイリッシュなキッチン雑貨でおしゃれに料理を楽しみたい、というお客様が増えたのでしょう」と見ています。他、空気清浄機、自宅で使えるフィットネス商品の売り上げも伸びたと言います。今後は、会員登録者の検索、購買履歴をもとに、その会員が関心を持っていると見られる商品分野の催事やネット通販で買えるお勧め商品の情報を提供して、利用拡大を図りたい考えです。 (取材・文:具志堅浩二) ※この記事のコメント欄に、さらに知りたいことや専門家に聞いてみたいことなどがあればぜひお書きください。次の記事作成のヒントにさせていただきます。