東大の学費値上げ問題 「だれにでもチャンスを広げるのが、国立大の使命」と専門家の声
私立大学に比べて低く抑えられている国立大学の授業料の値上げが相次いでいます。とりわけ東京大学が値上げを発表したことは、ほかの国立大学や私立大学へも影響を及ぼすと見られています。その背景や受験生に与える影響を、学生への経済支援策に詳しい小林雅之・桜美林大学特任教授(東大名誉教授)に聞きました。(聞き手=朝日新聞「Thinkキャンパス」平岡妙子編集長、写真=安田講堂前で授業料値上げ反対のシュプレヒコールをあげる東大生たち、2024年9月18日、朝日新聞社撮影) 【写真】東大駒場キャンパスの学費値上げ反対看板(写真=2024年6月20日、朝日新聞社撮影)
国立大学の学費はいくら?
初めに国立大学の学費を確認しておきましょう。国立大学の入学金と授業料は、文部科学省によって、それぞれ28万2000円、53万5800円と標準額が決められています。ただし標準額の20%を各大学で上乗せできることになっており、その上限は入学金が33万8400円、授業料が64万2960円となります。 東京大学は2025年度の学部入学者から授業料を20%値上げし、上限の64万2960円にすると発表しました。修士課程と専門職学位課程(法科大学院を除く)は29年度入学者から同額に値上げし、博士課程は現状を保ちます。国立大学の値上げは19年度以降、首都圏を中心に拡大しており、すでに東京農工大学、東京藝術大学、千葉大学、一橋大学などが20%の上限まで上げています。
光熱費や人件費の高騰
――東京大学は今回の値上げでどれくらい増収となるのでしょうか。 年間13億5000万円の増収を見込んでいます。この額は全収入の約0.5%に当たります。現在の標準額が定められた05年度以来、授業料を据え置いていましたが、光熱費や人件費が、物価高により高騰したため、財政が厳しくなったとされています。 ――学生や教員から値上げ反対の声が上がりました。なぜ反発が起きたのでしょうか。 なぜ値上げが必要なのか、きちんとした説明がなかったからです。値上げによってマイナス面も出てくるはずですが、そこには言及しませんでした。教育環境改善費に充てるとしていましたが、必要な額は年間143億円で、増収分とはかなり開きがあります。その開きをどうやって埋めるのか、納得できる説明もありません。 ――今回の値上げによって、どのような家庭が影響を受けるのでしょうか。 所得が高ければほとんど影響はないでしょう。所得の低い層も、給付型の奨学金や、授業料免除や減免を行う国の修学支援新制度があるので、それほど問題がありません。 問題は支援を受けるまでに至っていない、年収400万円から600万円あたりの中間層です。そこをどうやって支援するか、きちんとした話し合いが必要です。給付型奨学金の支給や授業料減免をもっと拡充すれば、値上げとセットにしても負担は少ないと思います。