つんく♂「『勇気を持って休む』が大人の合言葉」声帯摘出を経て見つけた“自分にとっての幸せ”
「病気を乗り越えたと思うことはない」自分にとっての幸せは現状の中で楽しみを探すこと
――病気になってから、音楽を作ることに対しては何か変化がありましたか? つんく♂: 音楽を作ることはとても難しくなりました。今までは自分の声でささっとニュアンスを伝えることができましたからね。 一方で、雰囲気を伝えるのは難しいけど、最近はテキストでもなんとか伝わるものだなとも思っています。「音楽」という共通言語があるので、ミュージシャンやアイドルたちと話すことはなんとかなっているように思います。みんな勘が良いんですよね。 ――「病気を乗り越えたつんく♂さん」と語られることに対しては思うところはありますか。 つんく♂: 誰かにそういう話をされることは全然問題ないのですが、僕自身が「病気を乗り越えたぜ」みたいに思うことはありません。いつどうなるかわからないし、緊張感はずっと続いています。 ――それでも前向きに生きるために心がけていることを教えていただけますか。 つんく♂: 100%前向きではないですよ~(笑)。でも、人生って現状を楽しむしかないと思うんです、きっと。例えば1000円のランチでめちゃくちゃ幸せを感じる人生もあれば、3万円のフレンチを食べても文句しか出てこない人生もある。どっちが自分の中で幸せを感じるかは明白ですよね。 でも、実際は「今よりもっともっと!」となるのが人間なんでしょう。だから現状の中で楽しみを探すように心がけます。例えば、クラス替えをして仲の良い友だちが1人もいなくなって落ち込む人生もあるとは思いますが、新しいクラスで新たな友だちを作れるほうが人生は楽しいと考えます。 ――今後はどのような活動を考えているのでしょうか? つんく♂: これまでの音楽制作、アイドルプロデュースをしてきた経験の中で培ってきたノウハウを元に「凡人が天才に勝つ方法」という本を書きました。今後もこのように、作詞、作曲をしながら執筆活動もしていきたいですね。そしてやはり新人の育成。僕の知っているノウハウを惜しみなく次の世代に伝えていきたい、それだけです。プロデュース論や作詞、作曲術、新人発掘の方法や激励の方法、コミュニケーションの方法など、音楽をやりながら僕が学んだこともどんどん言語化していくつもりです。総監修を務めている『中2映画プロジェクト』での映画作りや、次回で4回目を迎える『TOKYO青春映画祭』も大きなプロジェクトに成長させたいと思っています。 SNSが主流の時代になって、大人と子どもの垣根がなくなった部分もあれば、昔なら曖昧だった部分にきっちり線が引かれるようになったと感じることもあります。ただ、時代が変わっても音楽に対する情熱や愛情、作品作りへの思いは変わらないし、その思いはアーティストにも刺さるはず。その思いを忘れずに、僕ができることをしていきたいです。 ----- つんく♂ 1968年、大阪府出身。音楽家、作詞家、作曲家。1988年、シャ乱Qを結成。1992年にメジャーデビューし、4曲のミリオンセラーを記録。1997年よりモーニング娘。のプロデュースをはじめ、数多くのアーティストのプロデュースや楽曲提供を手がける。2015年、喉頭がんにより、声帯全摘手術を受けたことを公表。現在は総合エンターテインメントプロデューサーとして幅広く活躍。2023年9月に『凡人が天才に勝つ方法 自分の中の「眠れる才能」を見つけ、劇的に伸ばす45の黄金ルール』(東洋経済新報社)を発売。 文:優花子 (この動画記事は、TBSラジオ「荻上チキ・Session」とYahoo! JAPANが共同で制作しました)