「野球を楽しむために何が必要か、本人に考えさせる」工藤公康が実践した監督としての心構え
今年の夏の甲子園、全国高校野球選手権記念大会は“エンジョイ・ベースボール”をモットーに掲げる慶應義塾高校が優勝した。29年間プロ野球選手として活躍し、引退後は福岡ソフトバンクホークスの監督として5度の日本一に導いた工藤公康さんは、「子どもたちをアスリートとして指導するのではなく、子どもたちの選択肢を増やすためのサポートをするべき」と語る。日本代表の次期監督候補として名前の挙がる工藤さんが、監督時代に心がけていたことや、スポーツに励む子どもたちへの指導者のあり方について聞いた。(聞き手:荻上チキ/TBSラジオ/Yahoo!ニュース Voice)
栗山監督が自分の思いを直接選手に伝えたことでチームの意志ができた
――3月に開催されたWBCで日本代表チームの指揮を執った栗山英樹監督について、監督経験者の工藤さんはどう見ていたのでしょうか。 工藤公康: 栗山監督はやっぱりすごいなって思いましたね。特にすごいと思ったのは、代表選手を決める際に、大谷翔平くんやダルビッシュくんと直接話をするためにまず渡米したこと。自らがアメリカに赴いて選手と話をして、「どうしても君が必要なんだ」という言葉を本心から投げかける。監督の言葉を直接聞けば、選手たちもそれが本心なのか、上辺だけなのか分かるはずです。 心から野球が好きで、日本の野球は素晴らしいという自負を持っている人が監督をやる。そして、その人がしっかり選手と話をすることで、選手も同じ気持ちになることができるかどうか。それがWBCで勝つことができるカギじゃないかなと思います。 ――なるほど。3月の優勝もそこに要因があったということですね。 工藤公康: そうですね。あとは、侍ジャパンの選手たちがみな「楽しもう」という意志があったことも優勝できた大きな要因だと思います。楽しむことは、ただ野球が好きというだけではできません。自分がどういう行動をしなければいけないのかを自分たちで考えて行動することで、はじめて野球を楽しむことができるのです。 だからこそ、今大会の大谷くんはキーパーソンだったと言えます。チームメイトに「楽しもう」と呼びかけて、一人ひとりが楽しむために何ができるのかを考えた。その姿勢があったからこそ、結果につながったのだと思います。そして、その意志を芽生えさせたのが、選手と対話して本心を伝えた栗山監督の行動だったのではないでしょうか。