「自分だけは大丈夫」一般人の若者が闇バイトによって人生を踏み外すメカニズムとは?
今年に入り真相が明らかになった「ルフィ」と名乗る指示役4人による広域強盗事件をはじめ、白昼堂々と人目を気にしない犯行で世間を驚かせた銀座や川崎の時計店強盗事件、さらに9月に起きた千葉県習志野市の質店強盗事件では17歳の少年を含む5人が逮捕されるなど、近年“素人”による犯罪が急速に増えている。これらの事件に共通することの一つは、インターネットやSNSなどを介した、いわゆる闇バイトで集められた犯行メンバーがいたという点だ。今やスマートフォン一つあれば、どんな一般人でも簡単に危険な情報にアクセスでき、知らぬ間に犯罪行為に加担してしまう時代が訪れている。この状況について、犯罪心理学者の出口保行さんは「自分自身で得た情報の取捨選択ができることが重要」と話す。このSNS時代に犯罪に手を染めないための予防策について話を聞いた。(Yahoo!ニュース Voice)
これまであり得なかった素人による犯罪が増えた背景
――近年、とても雑で大胆な犯罪行為が増加している印象を受けます。 出口保行: 最近増加してきた犯罪の傾向は何かというと、今まで非行や犯罪行為に手を染めたことがない、犯罪に対して全く知識のない “犯罪素人”による犯行が増加し、それまで普通の一般人だった方がいきなり犯罪者に転落していくというパターンが非常に増えてきています。通常は犯罪を犯そうと考えていても、実際に犯行に至るまでに大きな迷いが生じ、そこでリスクとコストの2つを考えます。リスクとは実際に犯行を実行してしまうことによって、自分が検挙されてしまう恐れの高さ。コストとは自分が犯罪を実行したことがばれた時に失うものの大きさや実行する労力そのもの。要するに目先の利益だけを考えて犯罪に飛びつこうとしても、リスクとコストが大きければ犯罪を起こさないというのが基本的な人間の考え方になるわけです。 最近の “犯罪素人”による犯罪は、そのリスクとコストを度外視していると言えます。例えば銀座や川崎の時計店で起きた強盗事件では、覆面で顔を隠していたにせよ、身なり風体を白昼堂々さらけ出し、誰がどう見てもそこで事件が起きているとわかってしまうほどの大胆な犯行でした。そのような大きなリスクを冒してまで、強盗という原始的な事件を起こしてしまう、プロの犯罪者であれば絶対にあり得ないのが一つの大きな特徴になっています。 ――素人による犯罪は、これまでと何が大きく違うのでしょうか? 出口保行: やはりSNSの普及が現在の犯罪事情に非常に大きな影響を与えています。その背景には“闇バイト”の暗躍があります。「誰しもが犯罪に加担できる」そのプロセスが簡素化されており、闇バイトに応募してくる人たちが、犯罪を軽く考えてしまう状況ができています。従来は法を破るということに関して、危機感というものがありましたが、今の場合は「法を破っているのか?破っていないのか?」がグレーゾーンになってしまっています。 具体的には、高額なバイトで何かしら犯罪の匂いを感じていても「仕事の詳細は知らされていないし、何も知らないから大丈夫」「やばかったら途中で降りることができる」など安易な気持ちで闇バイトに取り掛かるので、犯罪に片足を突っ込みやすくなる現象が起きていると考えられます。 しかし、闇バイトというのは上手くできています。個人情報を応募してきた人から奪っていき、もう逃げ切れない状況になります。首謀者側は自分の手を汚すことなく事件を成立させることができ、トカゲのしっぽ切り状態になっています。フィリピンの入管施設に収容されていた「ルフィ」と名乗る指示役4人による広域強盗事件のような、海外から人を操り事件を起こすような形での組織犯罪は従来はなく、新しく出てきた “いまの犯罪の形”であると言えます。