なぜ、まだ「逮捕」されないのか…三菱UFJ銀行元行員が貸金庫から十数億円を盗んだ「大胆すぎる犯行手口」
失墜した貸金庫サービスへの信頼
「支店長、副支店長もなんらかの処分を受けるでしょう。『その手口なら絶対に見抜けない』となれば、処分も軽い。ただ、元行員から軽んじられていたからこそ、4年半もバレずに不正を続けられたのではないでしょうか。行員から支店長や副支店長が舐められていなければ、これだけ長期にわたる犯行は困難だったはずです」 それにしても4年半もの間、なぜ誰にも気付かれずに犯行を重ねることができるのだろうか。 「貸金庫の契約者の中には、高齢のため、出かけるのが億劫になって金庫を開けに来なくなったり、認知症などが原因で貸金庫を借りていたことさえ忘れてしまう人もいます。そのため、何年も貸金庫を開閉しない契約者がいる。十分に考えられる話です」 今回の事件は、貸金庫サービスそのものの存続にも疑問を投げかけるものとなっている。 「貸金庫の管理ルールが大幅に見直される可能性もあります。行員が関与する限り、不正行為のリスクを完全に排除することは難しいでしょう。たとえ管理ルールを変えても新たな手口は生まれ、悪事は尽きないと思うんです。絶対に不正をしない、ということは銀行業務においては難しいと考えます」 また、今回の件で貸金庫自体の信頼が失墜し、利用者が減少する可能性もあるという。 「高額な手数料を支払って利用していたのに、『裏切られた』との思いを拭えない契約者はいるでしょう。“闇バイト”騒動で自宅に貴重品を置きたくないから、と貸金庫の利用を考える富裕層は増えていたはずです。しかし今回の事件を機に、銀行も信用できないことが露呈してしまった。自分の資産は自分で守らなくてはならないと感じた人もいるでしょう」 契約者の高齢化も、貸金庫利用の課題を深刻化させる。
「必ず立件される事案」
「昔からよくあるタイプの銀行店舗では、貸金庫が2階にあります。ですがエスカレーターやエレベータがない店舗も多い。事件後、慌てて貸金庫を確認しに来る高齢の顧客はいるでしょう。杖をついているような顧客が階段を踏み外してケガを負う懸念もあります。 そうなれば、今度は、貸金庫の場所が客本位ではない、という世間の批判も浴びる。現在でも都内の住宅地にある店舗では、事件後、階段に終日、行員を立たせて、顧客をサポートせざるをえなくなっているんです」 これらの問題から、今後、貸金庫はサービス自体が廃れていく可能性も指摘されている。 発端となった元行員は懲戒処分こそ受けたが、現在も逮捕も書類送検もされていない。インターネット上では「上級国民だから罰せられない」「身内に甘い。だから被害届を出さない」などとの投稿も目立つ。 だが、元警察官僚で、秋法律事務所の澤井康生弁護士は「銀行や警察側に特段の意図があるわけではありません」と話す。 「被害金額が十数億円と大きく、この事件は必ず立件される事案です。ただ、現行犯ではないため、現行犯逮捕もできないですし、かといって緊急逮捕できるような状況でもありません。そうなると普通に裁判所に令状請求をして、逮捕状を出してから逮捕という流れになります」(澤井氏、以下「」も) いわゆる通常逮捕というやり方だ。令状を請求するためにはさまざまな書類を作って揃える必要がある。調査結果をもとに、警察が立証に必要な証拠を集めていく。「いつ何を取ったのか」「取ったものを何に使ったのか」、被害品目や金額の確認も必要となる。事件に関することを事細かに調べ、立件に必要な資料を全部揃えたうえで、警察は裁判所に対して令状請求する。 今回はわかっているだけで被害者は60人。おまけに被害額も大きい。全て準備するのにはそれなりの時間がかかるのだ。 「立件できそうなものだけを先に揃えて令状請求をという流れになると思います。それで、とりあえず1回逮捕という形にするのではないでしょうか。とはいえ、作業量を考えると、あと1~2週間で逮捕できるか、といったらそうもいかないでしょうね」 では、元行員はどのような罪に問われる可能性があるのか。