歩くとなぜ認知機能改善に役立つのか/医療ジャーナリスト・安達純子
「新薬登場で重要度が増す~認知症の早期発見と予防」<21> 運動習慣は認知症予防に役立つ。たとえば、70~80歳の女性の認知機能テストの成績と日頃の運動習慣を調べた研究では、1週間に90分(1日あたり約15分)歩く人は、週に40分未満の人より認知機能が良いとの結果があった。そのカギを握るのがアセチルコリン(神経伝達物質の一種)。 「アセチルコリンは神経の末端から放出され、血管を拡張する働きがあります。歩行すると、脳の高次機能をつかさどる大脳皮質や海馬でアセチルコリンが増え、脳の血管内部の血流がよくなることを私たちの研究で明らかにしました」と、東京都健康長寿医療センター研究所自律神経機能研究室の堀田晴美研究部長。 大脳皮質や海馬でアセチルコリンを放出するのは、大脳の奥の方にある「マイネルト基底核」にある神経細胞。この細胞は、大脳皮質や海馬まで突起を伸ばし、そこで多くの枝を張り巡らせている。 「一定時間の歩行を行うと、マイネルト基底核から伸びた神経の先端から、アセチルコリンがスギ花粉のように大脳の中に大量に放出されるのです。結果として、大脳皮質や海馬の血流が一気によくなるイメージです」(堀田部長) 脳の血流がよくなると、神経細胞が血流不足に陥る危険が減り、アルツハイマー病での蓄積が知られるアミロイドβ(タンパク質の一種)のような悪い物質が排せつされる可能性もある。それを実現できる簡単な方法が毎日歩くことなのだ。1日少なくとも15分は歩こう!