なぜJRA調教助手らの1億円を超える持続化給付金の集団不正受給疑惑が起きたのか…背景に“黒幕”の存在
別の厩務員はこう言う。 「誰かが新車を買ったら、給付金で買ったのかと言われるほど。私たちの周りでは12月ごろには、あの税理士は危ないとささやかれてもいた。実を言うと今回、受給したのは海外などで活躍するような稼ぎのいい厩舎の人がほとんど。下っ端の厩舎の厩務員は、こっちはもともとの稼ぎが少ないから給付の申請も難しい。お前ら、たくさん稼いでいるのに100万円もらってええな、と話していた」 だが、黒幕と評される税理士は、共同通信の取材に対して「コロナの影響を受けたかどうかは申請者本人の申告に基づいている。不適切な申請はしていない」と、今回の疑惑を全面否定している。 日本調教師会の橋田満会長も、「昨年より持続化給付金の不適格な申請をしないよう通告してまいりました。受給要件の前年度からの減収がコロナの影響を受けてのものなのか否かは適切な判断をしなければならないことだと考えます。至急、事態の究明に努め、厳正な対応を行ってまいりたいと思います」とコメントした。 持続化給付金の受給条件は「2020年1月以降、新型コロナ感染症拡大の影響等により、前年同月比で事業収入が50%以上減少した月が存在すること」などとある。調教助手や厩務員の事業収入の減少が、新型コロナの影響を受けたものであれば受給に問題はない。だが、調教助手や厩務員の収入減少は、単に競走馬の成績が悪いことが原因であり、給付金の受給要件に該当しないと考えられる。実際、昨年はインターネット投票会員が激増し、総売り上げは9年連続の増収となり、開催レース数は過去最多だった。調教師会が返還を求めてきたのも、不正だと判断したからだろう。 ただ延滞金をプラスして給付金を返還するだけでは話は済まない。 司法が悪質な不正と判断した場合、指南した“黒幕”らは、詐欺罪で立件されることになる。不正を指南した慶應義塾大学の学生が詐欺の疑いで逮捕された例がクローズアップされたが、税理士や行政書士らが専門知識を悪用して逮捕されるケースが相次いでおり、すでに全国で500人以上が摘発されている。その被害の総額は立件されたものだけで約4億円。今回の競馬界の事件だけで、その4分の1にあたる1億円以上になるのだから、今後の捜査如何では立件に持ち込まれる可能性はあるだろう。 すべてを“黒幕”の税理士に「任せていたから」では話は通らない。世の中には新型コロナで本当に経済的に困っている人たちがいるのだ。一人一人の見識とモラルだけでなく、彼らを管理するJRA、調教師会など組織側にも、コンプライアンスの欠如、管理責任は問われる。ファンのお金を預かるギャンブルの世界だからなおさらだ。なによりファンの信頼を失い、真摯に取り組んできた他の競馬関係者までにもダメージを与えたことは大きい。 今週末には今年最初のG1レースであるフェブラリーステークスが行われるが、適正な問題の処理を行わななければファン離れにもつながりかねない。 ちなみに15日に申請が締め切られた持続化給付金の支給総額は約5兆5000億円で、不正に受け取ったとして国に返還された総額は106億円だという。