フィンランドに移住し、夫と居酒屋を創業。吉田みのりが実践する「自分らしい豊かな暮らし」
いわゆる高齢出産であり、ときに体力的な大変さはあるが、この年齢で出産したからこそドンと構えられているというポジティブな側面もあるという。また、「仕事で鍛えた対人能力が子育てにおおいに生きている」とも話す。 「飲食業をしていると、フィンランド人のお客さんへの対応が難しいと感じることが少なくありません。みんな好き嫌いが多いし、保守的で新しい食べ物には警戒心が強いし、値段の高さに不満を持つ人も多いんです。日ごろから、そうしたお客さんへの対応をしているので、赤ちゃん1人のお世話は難なくこなせているのかなって」 乳幼児の子育てをしていると、何ひとつ思いどおりにいかない。予定どおりに物事が進むことはまずないが、レストランの経営を通じて、そうした事態にも慣れている。さらに、フィンランドには妊娠中から就学前までの間、子育てを支援してくれる「ネウボラ」という制度があり、子育てや自身の体調管理に関しても細かくアドバイスがもらえる。これにも助けられているそうだ。
使命は「フィンランドの食文化」を広げること
飲食業界に転身して約8年。いまではレストラン運営を「自身の使命」とも捉えていると、みのりさんは言う。 「この国での暮らしを通じて、フィンランドの食文化の乏しさを目の当たりにしました。ふだんからかわりばえしない食事をしているし、外で食事をするにしてもフォークとナイフをつかってコース料理を楽しむ文化が一般的です。そうしたファインダイニングだけが食の頂点に立つのではなく、小皿料理を並べてわいわい飲食を楽しむ居酒屋や開放感のある野外で楽しむストリートフードの文化が強い国もありますよね。私たちが新たな食のスタイルを提案してダイニングスタイルを変えることで、フィンランドの人々の文化やライフスタイルの価値観を広げていけたらいいなと思います」
実際、Sake Bar & Izakayaをオープンしてから変化が起きているという。ヘルシンキを中心に“イザカヤ”がブームになりつつあり、フィリピンバージョンやベトナムバージョンの居酒屋も誕生したそうだ。 執筆業と2足のわらじのみのりさんは、2024年2月に『暮らしの図鑑 フィンランド時間 季節の北欧生活44×基礎知識×実践アイデア』(翔泳社)を上梓。さらに、同年11月にはヘルシンキ市内に2軒目となる自身の飲食店「Café Tampopo」をオープンした。