オバマ大統領が目指す移民改革 行政命令で“強行”した背景 成蹊大教授・西山隆行
2014年の中間選挙における民主党の大敗を受けてレイムダック化したとされるオバマ大統領は、11月20日に、500万人近い不法移民に合法的地位を与える行政命令を出しました。この措置に共和党は強く反発し、17の州がオバマ政権に対して訴訟を提起するに至りました。アメリカの移民問題にはどのような背景があり、また、今回の決定は今後のアメリカ政治にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
アメリカ不法移民の現状
アメリカは毎年多くの移民を受け入れています。なかでも中南米からの合法移民は2000年からの10年間で全人口の12.5%から16.3%へと増加し、中南米系の人口は黒人の人口を超えています。また、不法移民もメキシコを経由して多く流入しており、現在では1120万人の不法移民が国内に居住しています。 移民と不法移民は、従来は党派を横断する争点でした。マイノリティを支持基盤とする民主党では中南米系に好意的な態度をとる人が多いですが、党の中核的支持団体である労働組合は賃金低下をもたらす移民、不法移民に敵対的な態度をとってきました。共和党は、労働者の賃金低下をもくろむ企業経営者に近い議員は移民、不法移民を歓迎するのに対し、移民のもたらす社会的混乱に不安を感じる地域から選ばれた議員は彼らに敵対的な立場をとりました。
包括的な移民制度改革とは
このような立場を妥協させるためにレーガン政権期以降にとられてきた方法が、一部の不法移民に合法的地位を与える一方で、以後の不法入国を禁止するべく国境警備を強化することでした。全ての不法移民を国外退去させるのは不可能だという現実的判断に基づいて、不法移民への合法的地位付与と国境警備強化をセットで実現するという包括的な移民法改革が目指されたのでした。 2009年に大統領に就任したオバマ氏は、包括的移民法の制定を目指して共和党指導部と議論を積み重ねてきました。2001年の9.11テロ事件以後に国境警備強化は進んでいたので、共和党の協力を得られるように、オバマ大統領は、ブッシュ政権を上回るペースで重罪犯などを中心に不法移民の国外退去を進めました。そして、包括的移民改革法案が昨年提出され、民主党が多数を占める上院を通過しましたが、共和党からは十分な賛同が得られずに下院を通過しませんでした。 共和党の中でも、ブッシュ前大統領やマケインなどの主流派の有力者は、包括的移民改革に賛成しています。2050年には白人人口は半数を下回ると予想されているので、共和党が大統領職を奪還するには、中南米系の支持を得ることが必要だからです。一方、ティーパーティ派など保守派の議員は、不法移民に合法的地位を与えることを断固として認めません。特に下院議員は選挙区の有権者を満足させれば当選できるので、全米の人口動態の変化や長期的な党の戦略に興味を持ちません。