オバマ大統領が目指す移民改革 行政命令で“強行”した背景 成蹊大教授・西山隆行
なぜ行政命令に踏み切ったのか
衝撃だったのは、包括的移民改革に積極的な立場を示した共和党のエリック・カンター院内総務が今年の中間選挙の予備選挙で、厳格な不法移民対策を訴えるティーパーティ派候補に敗北したことです。来年以降、連邦議会の上下両院ともに共和党が多数を占めます。このような事態を受けてオバマ大統領は、以後共和党の協力を得られる可能性は低いと考えて行政命令を出したのでした。 オバマ大統領の行政命令で、アメリカ市民と合法的滞在者の親、およそ370万人と、100万人の若者が、国外退去処分を3年間免除されました。アメリカ国内に5年以上滞在している不法移民が対象とされ、犯罪歴がないことを証明するとともに、税の未納分を支払う必要がありますが、国内で合法的に労働することも認められます。ただし、彼らに市民権が与えられるわけではないですし、「オバマケア」の補助金も受けることはできません。 オバマ大統領が行政命令を出す根拠の一つとして挙げたのは、議会が移民法を執行するのに十分な財政的資源を政府に与えていないということでした。行政命令の目的は、法を適切に執行することにあります。議会の決定はしばしば妥協の産物であり、とりわけ重要な部分について曖昧な文言が使われていることも多いです。また、法執行に関して十分な予算が割り当てられるのも稀です。このような制約の中で効果的に政策を実施するには、行政部が裁量をきかせて政策の執行基準を明確化することが必要だと考えられており、連邦最高裁判所も行政裁量の合憲性を認めています。移民政策についてこのような裁量をきかせることは、レーガンやブッシュ親子など、歴代の共和党大統領も採用してきた手法です。
共和党の猛反発と17州の提訴
しかし、このオバマ大統領の行政命令は共和党議員から猛反発を受けました。ティーパーティ派のミシェル・バックマンなどは、数百万人の「文字も読めない」外国人に民主党に投票させるための措置だと発言して物議をかもしました。また、党の一部から、12月11日が期限であった連邦予算を通さずに連邦政府を閉鎖することも念頭に置いて対抗するべきだとの主張もなされました。しかし、共和党指導部の決定は、予算は通すものの、不法移民に関連する法を執行する国土安全保障省については2月までの予算のみ承認するというものでした。これは、予算の点でオバマ政権に揺さぶりをかけることの困難さを示しています。オバマ大統領は行政命令を、移民政策を実施するための予算不足への対応策として提起しているので、予算を減らすと、政権はより国外退去処分を行わなくなると考えられるからです。 また、12月初頭には17州がオバマ政権に対して訴訟を提起しました。アメリカでは連邦政府の決定に対して州政府が訴訟を提起するのは珍しくありません。ただし、州と地方政府が移民政策のコストを一方的に負わされているのも事実です。州や市などの政府 は住民の移動を拒否することができないにもかかわらず、連邦の方針に従って、あるいはそれを破って流入してきた移民に対して、法執行や医療、教育などのサービスを提供しなければならないからです。州知事の中には2016年の大統領候補となることを目指している人もいますが、彼らは共和党内の保守派と良好な関係を保ちつつ、中南米系の支持も一定程度確保せねばならないという困難な課題に直面しています。