「葬られると、僕は滅びるのかしら」「ええ、勿論で御座います」読み進むにつれ不安も増す…「原民喜」による奇妙な物語(レビュー)
書評子4人がテーマに沿った名著を紹介 今回のテーマは「葬列」です ***
「夏の花」などの原爆文学で知られる原民喜には、奇妙な味の短篇が多くある。「行列」は、自分の葬儀を見る少年の話である。 主人公の文彦がある日中学校から帰ってくると、玄関に「忌中」の紙が貼ってある。家に入り、寝かせられている人物の顔から白い布が取り去られると、そこにあったのは自分自身の顔だった。 文彦は自分が棺桶に入れられるのを見る。そして、火葬場に向けた葬列が出発するのである。 文彦は葬列について行く。母に近寄って自分は生きていると訴えるが「おや、文彦だね。迷っているのだね」と、姿は見えているのに取り合ってくれない。クラスメイトは「生きてた時から、まるで幽霊のような野郎だったもの」と言って笑う。 最後に話したのは文彦の家で働く老女である。 「葬られると、僕は滅びるのかしら」と文彦が問うと、老女は淡々と答える。 「ええ、勿論で御座います」 焼き場に着き、棺が祭壇に安置される。母はハンカチで眼を拭い、僧侶が読経を始める――。 文彦の年齢や家族構成、家庭環境は、作者の中学生時代と同一である。自分の葬列を見る少年は原民喜自身なのだ。 全体としてはありえない世界なのに、人物すべてに妙な実在感がある。ゆがんだ土台に精妙な建物が建っているようで、読み進むにつれて不安が増していくのだ。こういう作品を読むと、原が幻想小説の名手でもあったことがよくわかる。 [レビュアー]梯久美子(ノンフィクション作家) かけはし・くみこ 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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