三菱一号館美術館の“新章”スタート、再開館記念展は美術館の顔・ロートレックと、現代アーティストのソフィ・カル
(ライター、構成作家:川岸 徹) 2023年4月からメンテナンスのために長期休館していた三菱一号館美術館。再開館を記念し、2人のアーティストを紹介する「再開館記念『不在』―トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」展が開幕した。 【写真】「再開館記念『不在』ートゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」展示風景。アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック《ジャヌ・アヴリル(ジャルダン・ド・パリ) ■ 丸の内のランドマークが帰ってきた 2010年の開館から東京・丸の内のランドマークとして親しまれてきた三菱一号館美術館。1894(明治27)年、開国間もない日本政府が招聘した英国人建築家ジョサイア・コンドルの設計による「三菱一号館」を復元した赤煉瓦の建物。コレクションも建物と同時代の19世紀末西洋美術を中心に形成され、古き良き時代のあたたかみを感じられるミュージアムとして幅広い層から人気を獲得してきた。 だが、2020年代は美術館にとってもアートファンにとっても、辛抱の時期。コロナ禍による外出控えにより、同館に限った話ではないが、美術館から客足が遠のいてしまった。自粛ムードが落ち着いた2023年4月には、設備メンテナンスの工事がスタート。工事による休館期間は約1年半に及び、コロナ禍の影響と工事が連続したため、三菱一号館美術館の「不在」は実際よりも長く感じられた。 そんな三菱一号館美術館が、2024年11月23日にリニューアルオープン。さて、何が変わったのか? 今回のメンテナンスでは空調機をすべて入れ替えるなど、快適性を高める工事が行われた。しかし、何より驚かされたのは展示室の壁色の変更だ。以前の三菱一号館美術館は壁色に赤味がかったグレーブラウンを採用。これが暗い色調の作品が多い19世紀から20世紀初頭の絵画とよくマッチし、美術館の大きな個性となっていた。だが、リニューアルによってすべての展示壁が、どんな作品にも合わせやすい乳白色に。壁色に合わせて絨毯も赤みのないものに変えられ、照明はLED化された。 この変更に、三菱一号館美術館の今後のヴィジョンが明確に表れている。これまで展覧会は19世紀末から20世紀初期にかけての西洋美術がメインだったが、これからは取り上げるアーティストの幅を広げていく方針だ。「美術館は時代の変化に応じて、常にその活動を見直す必要があります。そのために、時代を映す鋭敏なアーティストの感性を借りることが、ひとつの最善策であると考えています」と三菱一号館美術館は言う。