「振り向くと誰もいなかった」老舗メーカーの女性社長が気付いた根深いジェンダーギャップ ポストを用意するだけではだめ、段階を踏みながら進める女性の昇進
東京証券取引所で最上位のプライム市場に上場する企業1643社のうち、女性社長はわずか13人。そのうちの1人が大手総合電線メーカー、SWCCの長谷川隆代さんだ。新卒で入社したたたき上げで、同社で初めての女性かつ研究職出身の社長だ。長谷川さんは会社が大赤字を計上した危機的状況でトップに抜てきされ、矢継ぎ早に改革を実行。直近の純利益は就任前の2倍を超え、経営手腕を証明した。 【写真】女性は「お飾り」?男性がバトンを男性に… あまりに極端なジェンダーギャップ、見えてきた企業の実情
だが「社長が女性なのだから、社内の要職にも女性がたくさんいるんですよね」と社外の人から言われ、振り向くと自分に続く女性が誰もいないことに気付いた。これまで女性の地位を向上させようと思って会社の中で生きてきたわけではない。なぜ女性が上のポジションにいないのか、何が制約になっているのか。長谷川さんが突き付けられたのは、ジェンダーギャップの根深い問題だった。(共同通信=越賀希英) ▽「女性は採用しない」と言える時代に入社 長谷川さんは1984年に昭和電線電纜(現SWCC)に入社した。東芝の電線部門を源流とし、日本の電線大手4社の一角を占める老舗メーカーだ。 「子どものころから実験や考察といった自由研究をするのが大好きだった」と話す長谷川さんは新潟市出身。新潟大大学院工学研究科で学んだ。当時、理系の女子学生は就職口がなく、公務員か学校の先生になるのが定番だったが、「もっと広い世界で仕事をしたい」とメーカーへの就職を目指した。
SWCCに入社したのは「大学院修了の技術者として採用すると言ってくれた唯一の会社だった」からだ。入社した1984年は男女雇用機会均等法が施行された1986年の2年前。女性が入社試験を受けられる企業はほとんどなく、募集があっても短大卒と同じ待遇だったり、職種は事務一般のみだったりという状況だった。「当時は男女が全く平等でなく『女性は採用しない』と会社が平気で言える時代だった」と振り返る。 ▽研究続けた技術が製品に 入社後は研究室に配属され、2006年に子会社の取締役に就任するまで研究職一本で歩んできた。技術職で入社した同期の女性はほかに2人しかおらず、社内外から「なんで女の子なんかに担当させるんだ」と面と向かって言われたり、電話対応でも「男性に代わって」とむげにされたりすることは日常茶飯事だった。このような経験がバネとなり「実績を積んでいくしかない」と考えていたという。 1988年からは酸化物超電導の開発に携わり、1994年には課長級の研究室長に昇格した。SWCCが現在手がけている超電導ケーブルは送配電時の電力ロスを軽減できるのが特徴で、酸化物超電導の技術が活用されている。カーボンニュートラル実現に向けてさらなる技術開発への期待が寄せられ、事業を支える柱へと成長している。