「振り向くと誰もいなかった」老舗メーカーの女性社長が気付いた根深いジェンダーギャップ ポストを用意するだけではだめ、段階を踏みながら進める女性の昇進
事業では子会社単位だったビジネスに事業単位のセグメント制を導入し、事業会社の社長よりも権限の強い責任者を置いた。「赤字でなければよい」との内向きな発想を転換させるため、投資家が投資判断の際に重視する経営指標を用いて、期待する利益水準を達成できなければ統廃合の対象とした。 これらの取り組みは実を結び、安定して黒字を出せるようになった。今後は電線というインフラ事業の枠を超え、データセンターの伝送ケーブルや電気自動車(EV)への技術の応用が成長分野になるとみる。長谷川さんは「30歳前後の社員と話していると、会社のつらかったことを知らずに『うちの会社ってスピード感があってどんどん伸びている会社ですよね』と言う。若い人たちがそう思ってくれているのはすごくうれしい」と語る。 ▽チャンスに手を挙げない女性社員 2021年度には女性活躍推進プロジェクトを立ち上げ、ダイバーシティー(多様性)の推進に力を入れている。女性活躍とは何かという問いにも向き合った。「男性の中で自分のやりたいようにやってここまで来たので、女性の特別枠みたいなものにすごく抵抗があった。それが良いのか悪いのかという判断がつかなかった」 平等に常に機会を与える「平等感」と、圧倒的に不利な状況があれば底上げをする「公平感」という二つの考え方の中で、当初は男性も女性も機会は同じという点で平等でいいと考えていた。ただ「女性はライフイベントやマインドといった問題を抱えていて、上に上がっていくチャンスがあったのにもかかわらず手を挙げていない。そういうことがあるなら女性の進出や地位向上は別に考えなければいけないかもしれないなと思うようになった」と話す。
プロジェクトはメンバーの社員目線で施策をつくり上げている。これまでに部門長向けのジェンダーバイアス研修の実施や、女性のキャリア形成支援のプログラムをそろえた。 社内で理解を得た人が昇進していく機会をつくるため、階層別研修に女性を一定割合入れ、段階を踏みながら進めている。「トップダウンでポストを用意すれば早いが、女性だから役職を得たと思われてはいけない」と訴える。 ▽今までの当たり前は当たり前ではない 会社の中で本流を歩んでこなかったという長谷川さんは「会社の経営状態が良くなってきて『社長の言っていることは間違いではなかったんだね』と社員が思ってくれたことで、会社がどんどん変わっていっている。女性や非主流の人たちが入って意見を交わすことで、今まで当たり前だと思っていたことが当たり前ではなく、違う目線があると気付いてくれた」と話す。 長谷川さんが社長のSWCCを含む非鉄金属の業界では、女性役員の比率が平均8%台と他業種に比べて低い。長谷川さんは「われわれのように企業向けに取引する業界でも、その先の社会はいろいろな価値観があふれている。綿々と続く会社の価値観を唱えるだけでは社会から評価されない」と力を込めた。