元編集者が内幕を暴露…“右翼雑誌”『WiLL』『Hanada』の爆売れの理由は「朝日新聞叩き」だった!一時13万部の大人気
朝日の影響力低下で「朝日批判」も落ち着いた
こうした「色」になるのは、ひとえに読者層に合わせて企画や記事の取り合わせを練っているからに尽きる。花田編集長は、もともと「朝日新聞のカウンター」的な発想は持っていたが、『WiLL』4号目にしてこの企画が大当たりし、「なるほど、保守系の雑誌とはこういう風に作ればいいんだ」という手ごたえを感じたに違いない。 2024年現在、『Hanada』ではしばらく朝日新聞批判特集が組まれていない。連載を含め、毎号なにがしか朝日新聞を突く記事は掲載されているが、トップで朝日特集を銘打ったのは、2019年9月号の〈ざんねんな朝日新聞〉が今のところ最後となっている。 朝日新聞の質が変わり、批判すべき記事、突っ込むべき論調が減ったのも理由の一つかもしれない。あるいは安倍政権終焉以降、特集を組むほどの対立軸がなくなったのかもしれない。安倍政権期という朝日新聞と保守派が激しくやり合った時期を過ぎ、朝日新聞の部数が減って世帯当たりの購読数が0.5部を下回る(つまり朝日新聞を購読している世帯は半分以下になった)ここ数年で最も朝日批判が盛んだったのは、他でもない安倍元総理の国葬儀の賛否をめぐってのものだった。これは実に象徴的であろう。
「週刊誌」の作法でつくったら売れた
それにしても、朝日新聞批判や、2010年代まで多く特集されてきた歴史認識問題、中国や韓国との外交問題などは、先行する保守系雑誌である『諸君!』や『正論』でも長年にわたって取り上げられてきたテーマである。その中で、いくらタイトルがキャッチーだからと言って、それほど他誌との差別化が図れるのかという疑問はある。実際、両誌と一緒に購読している読者は少なくなかった。 ではなぜ、『WiLL』は創刊から数年で、雑誌では異例の増刷が何度もかかったり、公称10万部に達するなど一気に2誌の部数を抜き去ることができたのだろうか。 他誌と違う特徴として、タイトルなどのほかに考えられるものを挙げてみたい。まずは編集スピード。通常、雑誌(特に月刊誌)は特集が決まり、ラインナップとページ数が決まり、台割ができてから動き出すものだという。「という」というのは、『WiLL』や『Hanada』では「校了直前に台割が決まる」ものだったので、他誌が事前に特集も掲載記事もページ数さえも決まった状態で寄稿依頼や取材が始まると聞いたのは、この業界に入ってしばらく経ってからのことであった。 『WiLL』と『Hanada』の場合、発売直後に次号の特集や取り合わせを決める企画会議が開かれる。しかしその時決まったラインナップが、そのまま実現されることはまずない。発売は約1か月後になるわけで、その間、どんな出来事が起きるかわからないからだ。 どの雑誌でも、突発的に重大な事件や出来事が起きた場合には記事の差し替えや特集の組み換えが行われると思うが、『WiLL』や『Hanada』の場合は、それが平常運転なのである。要するに「もっと面白い記事があったら当初の予定など無視してそちらを載せる」「ページが足りなくなれば一部記事は翌月(以降)に繰り越す」のである。これも、おそらく文春時代からの花田編集長のやり方なのだろう、ためらいがない。 以前は1週間から10日前後の終電帰りと最終日の徹夜作業を繰り返していた。2024年現在、花田編集長は82歳となり、さすがに徹夜・始発帰りはしなくなったものの、それでもほぼ毎月、数日間の終電帰りと校了最終日の午前様帰りを繰り返している。汲々とならずに済むよう、作業進行を調整すべきとの声は20年前から絶えないが、「最後の最後まで面白い記事をねじ込むために作業を行う」ためにどうしてもそうなってしまうのだ。
梶原麻衣子