昭和30年生まれの私 心臓血管外科医、天野篤さん「昭和は麦踏みの時期だった」 プレイバック「昭和100年」
もうひとつ、昭和という時代のキーワードになるのが「水」です。
昭和40年代に医学部を卒業した一回り上の先輩たちの中には、米国に留学した人もいました。彼らが向こうで驚いたことの一つが、すぐにお湯の出る蛇口があるということ。こんな国と戦争して、勝てるわけがないと思ったそうです。日本では上下水道の普及もまだ完全ではなく、後の研究で判明する簡易な井戸水中のピロリ菌によって、多くの人が胃がんで人生を途絶させられました。
私は昭和のネガティブな体験を水質不良な新興国、発展途上国にさせてはいけないと思っています。中国やベトナム、インドなど海外でも医療活動に取り組んできた背景には、リスペクトされる日本人でありたいという思いがあります。
令和を生きる今の若い世代にも、アジアという広いフィールドで物事を考えてほしいと思います。失敗や負けを恐れず、果敢に挑戦して可能性を広げていってもらいたいのです。(聞き手 緒方優子)