スタイリスト・原由美子さんとする「スタイル」の話
パリコレに通うという「見る権利」
『スタイルを見つける』の中で、原さん自身のファッションについては「サングラス」や「スニーカー」といったアイテムを通して綴られている。読んでいくと、確かな軸を持ちながら、時代のムードや自身の中でのタイミングによって選択の幅を広げる楽しさが伝わってくる。 ただ、やっぱり「スタイルを見つける」ことは容易ではない気がする。どうすればいいのでしょうと水を向けると、返ってきたのは「たくさん見るしかない」というシンプルな答え。 「たとえば昔のマガジンハウスで、ある時期ポロシャツをおしゃれに着ている人が多くて。そのうち会社の人みんなポロシャツを上手に着るようになる。やっぱり、見て、慣れることで作られていくものがあるのだと思います。私に関しては、職業的に『見るっきゃない』と。それで、『anan』の媒体登録をしていただいたのでパリコレ取材に行き始めました。その後も、その期間は自分の休みということにして自費で行く決心をしました。ホテルを取って、航空券を買って。元を取ろうという気持ちも働くし真剣に見る。記事として仕事に繋がらなくても、私にとっては『見る権利』の方が大事でした」 その眼は、ランウェイだけでなく日常の様々なシーンに向けられている。原さんと話していると、常にアンテナを立てる好奇心と観察眼に驚かされる。たとえば、話題が服装の男女差に移ったとき、「私よく日比谷線に乗るんですけれど」と切り出された。 「コロナ前のことですが、霞ヶ関駅を通るとき、4月は女の人が黒のパンツスーツ姿ばかりなんですよ。それが6月や10月になるともう真っ黒な人なんて乗ってこない。やはり、就職して初めの頃はそれが必要だと思って黒い上下を着るけれど、だんだんそれを着続けなくてもいいのかなと彼女たちも思うのかなと。女性の方が仕事着のルールが曖昧で難しいと思っていたのですが、今はコロナ禍も経ましたし、さらに変化している感じです」