かつて目の前で魚を捨てられた漁師、処理水放出後の応援ムードに目頭熱く… 専門家は中国の存在影響と指摘
福島中央テレビ
「子供に福島の魚を食べさせないで!」。10年以上前、首都圏で開いたイベントで、福島の若手漁師は自ら水揚げした魚を目の前で捨てられた。福島第一原発事故からの汚染水流出による猛烈な風評被害は、福島の漁業関係者を絶望の淵に追いやった。そこから地道な検査を重ね、信頼を積み重ねていた最中の去年8月、「処理水の海洋放出」が始まった。汚染水を安全なレベルまで浄化し、希釈したものが処理水とされるが、漁業者たちは風評の再燃を恐れた。しかし、漁業者たちは予想外の状況に直面する。かつて、目の前で自らの魚を捨てられたという若手漁師は、処理水放出後のイベントで、想定を大きく上回る約5000人もの来場者を前に目頭を熱くしていた。 【動画】東京から福島に来た17歳、念願の漁師に 処理水への不安抱えつつ夢追う
処理水の海洋放出…懸念は“風評被害”
去年8月24日、マスメディアの複数のヘリが福島第一原発の上空を旋回していた。多くの漁業関係者が反対する中、国と東京電力は処理水の海洋放出に踏み切った。放水口から大量の処理水が流れる光景が全国中継などで放送された。その様子を食い入るように見ていたのが、福島県沿岸にある相馬市の漁師・石橋正裕さん(45)。高校を卒業して漁師となり、今は「福進丸」の5代目船頭。質の高い魚と評判の「常磐もの」のヒラメやシラスなどを水揚げしてきた。近海を漁場とする石橋さんは「風評が再燃しかねない」と一貫して海洋放出に反対してきた。 「風評という部分もどうなるのかわからないままに、十分な説明もないままに、放出されることは納得いかなかった」。
安全性を証明するも、中国からの禁輸措置に止まない迷惑電話
処理水の海洋放出後、海水や周辺海域の水産物からは検査で異常を示す数値は確認されなかった。しかし、隣国の中国は日本からの水産物を全面的に禁輸し、抗議を繰り返した。さらに、民間レベルでは、中国の国番号を示す「86」から一方的な暴言や処理水の放出を抗議する内容の電話が福島県のみならず全国各地の公共施設や飲食店に殺到した。 「お前は人間の言葉を喋れないのか、なぜお前たちは核汚染水を海に放出したのか!?」。 被害を受けた福島県にあるラーメン店では、わずか1日で系列の4店舗で合わせて1000件以上の着信が確認された。店主は電話線を抜かざるを得ず、大きなショックを受けていた。 「予約の電話も取れないので、売り上げも下がる。本当にいい迷惑」。 この状況に、石橋さんも不安を募らせた。誤った情報が独り歩きし、風評につながることを恐れていた。 「中国に伝わっていない部分もあると思うので、福島の魚は安全安心だと言って買ってもらえるように、発信し続けることが大切だと思う」。