【MLB】MLBが投手のケガの調査結果を発表 パフォーマンス向上とケガの関連性
【MLB最新事情】 MLBは投手のケガについて1年間にわたって続けてきた調査結果を発表した。すでに指摘されていたことだが、球速の上昇、球の変化量を重視する傾向、目いっぱい力を込めての投球が多いことが、ケガが急激に増えた主な要因であるとあらためて明らかになった。報告書は問題に対処するため、ルール変更を検討することを推奨している。 この10年間でトレーニング施設「ドライブライン」などで新しいトレーニング方法が導入され、今までは休んでいたオフシーズンでも、科学的アプローチで新しい球種を覚え、球速を向上させることができるようになった。それをしなければ、ほかの選手に追いつけなくなるのでみんなが取り組む。 しかしながら、突然球速が上がった選手は肘の靭帯を損傷することが多い。自分の体が耐えられる以上の強度で投げているからだ。それでも今の野球界では速い球、空振りを取れるボールが評価されるため、選手も故障のリスクよりもパフォーマンスを優先する。スキル向上を追求することでより多くのケガが引き起こされる。現在の野球界が抱える最大のジレンマだ。 62ページからなる報告書は26のデータ表が添付され、MLB、大学野球、独立リーグのコーチ、国際的なトレーナーを含む200人以上の関係者へのインタビューを基に作成された。 球速の上昇についてはMLBの直球の平均球速は、2008年の91.3マイルから24年には94.2マイルに上昇した。スライダー、カーブ、チェンジアップなど変化球の動きはより鋭くなった上に球速も上がった。投手の肘のケガによる負傷者リスト入りの日数は、05年の3940日から24年の1万2185日と20年間で3倍以上に増加した。肩のケガによる日数も2634日から5445日と2倍になった。ちなみにピッチクロックについての報告書は、ケガにつながった証拠は見当たらなかったとしている。 専門家たちは、MLBが投手の健康と耐久性の価値を高めるべく、ルール変更を検討するよう提案している。これまでは肩肘を守るというと、決まって球数制限だったが、それだと限られた球数の中で目いっぱい投げてしまうために逆効果。むしろ、以前の投手のように長いイニングを投げさせることで、エネルギーを温存し、加減しながら投げることを奨励する。 具体的には投手の登録人数を減らしたり、投手を交代させる回数や頻度を制限するのである。ちなみに先発投手が5イニング以上を投げる確率はMLBでは05年の84%から現在では70%に減少した。 とりわけ育成機関である、マイナー・リーグでは68.9%から36.8%に減り、今後上がってくる投手は前にもまして長いイニングを投げるスタミナがない。このトレンドを止めなければならない。 MLBは21年から2年間、独立リーグのアトランティックリーグで「ダブルフックDH(指名打者)」制度を試験的に導入した。この制度では、先発投手が5回以上を投げ切れなかった場合、チームはDHを失ってしまう。また、MLBは22年6月20日にロースター上の投手数の上限を14人から13人に引き下げた。 果たしてMLB機構はこの報告書をもとに、具体的に何を実施するのか。次の動向が注目される。 文=奥田秀樹 写真=Getty Images
週刊ベースボール